体の大部分が水分でできているクラゲ。
これまで、クラゲは栄養価が少ないとされ、クラゲを捕食する生物も限られていると考えられていました。
そのため、クラゲにおける化学物質を用いた防御に関する研究は進められていませんでした。
そうした中で、東京海洋大学の学術研究院海洋環境科学部門の神尾道也教授と新江ノ島水族館は、カミクラゲがアカクラゲに捕食された際に防御行動をとること、さらに防御物質を放出することを明らかにしました。
この研究成果は「Journal of Chemical Ecology」に掲載されています(論文タイトル:Behavioral and Exumbrellar Integumental Defenses in Jellyfish: The Hydromedusan Spirocodon saltatrix Releases Oxidized Derivatives of Unsaturated Fatty Acids Potentially to Avoid Predation and Bacterial Biofouling.)。
クラゲは捕食者から身を守る?
体のほとんどが水分から成るクラゲ類はこれまで、栄養価が低いこと、体が透明であることから、他の生物の餌になるのは稀と考えられてきました。
また大部分が水分でできた体は、捕食されたとしてもすぐに消化されてしまし、胃内容物として残りにくいことも、この考えを後押ししていたようです。
ミズクラゲ(提供:PhotoAC)こうした背景から、クラゲ類がどのようにして捕食者から身を守っているのか、特に化学物質を用いた防御については研究されてきませんでした。
しかし、近年はDNA解析や同位体分析を駆使した研究から、クラゲが海洋生物の一般的な餌資源であることが判明し、クラゲの生き残り戦略への関心が高まっているのです。
東京湾に生息するクラゲを対象に実験
今回の研究では、クラゲ類の捕食者に対する防御、特に化学物質を用いた防御機構の有無を明らかにすべく、東京湾に生息するクラゲ類3種を用いた実験が行われました。
カミクラゲ(提供:PhotoAC)研究対象になったクラゲはミズクラゲ、カミクラゲ、アカクラゲ。このうちアカクラゲは捕食者として選ばれています。
研究グループはこの3種を用いて、摂食実験、防御に関わる可能性のある器官の特定、防御時にカミクラゲから放出される化合物の分析・防御物質としての評価を検証しました。
化学物質を放出して摂食を制御
摂食実験では、カミクラゲがアカクラゲの捕食に対し、触手を強く収縮させ傘の内側に引き込む行動「内巻行動」を示し、逃避することが確認されました。一方、ミズクラゲでは逃避することなく捕食されたといいます。
表皮除去実験では、カミクラゲの傘の表面が防御機能を有していることが示唆されました。
アカクラゲ(提供:PhotoAC)さらに、ガスクロマトグラフィー質量分析と呼ばれる手法では、カミクラゲは表皮が損傷した際に、キュウリの匂い成分を同じ物質を含む、C8 から C9 のアルコールとアルデヒドが放出されることが判明しました。
餌に化合物を添加する実験により、これらの化合物がアカクラゲの摂食を抑制することが明らかになっています。
これらのことから、カミクラゲが捕食者に対し、内巻行動や化学物質を用いた防御を行うことが示されたのです。また、こうした防御機構はクラゲ類が海洋生物の餌として重要な存在であることも示唆しています。
他のクラゲでも同様の防御機構はあるのか
今回の研究によって、カミクラゲが内巻行動で捕食者から身を守ること、表皮から放出される化学物質が摂食を抑制することが明らかになりました。
この結果は、これまで考えられてきた以上にクラゲ類が海洋生物の餌として利用されていることを示しています。
研究グループは今後、皮膚における化学防御機構が他のクラゲ類に広く存在するのか解明していくいとのことです。
(サカナト編集部)