環境は生物の発生や成長に大きく関わる重要な要素であり、生物たちは環境に適応し多様化していきました。
この適応には、目に見えない小さな変化もあれば、劇的な形態変化まで様々です。一方、環境の違いがどのようにして生物たちの体に変化をもたらすのかは、十分に解明されていなかったといいます。
そうした中で、国際研究ラボラトリー2028は生態学者David Lecchini博士と共同で、サンゴ礁の魚を対象に環境の違いが発生の調節に不可欠な甲状腺ホルモンのシグナル伝達にどう影響するのかを調査しました。
この研究成果は「Science Advances」に掲載されています(論文タイトル:Environmental tuning of thyroid hormone signaling drives developmental plasticity)。
多様な沿岸生態系を有する島
今回、調査の舞台になったのはフランス領のモーレア島。この島はタヒチ島の北西に位置する島で、マングローブから砂浜まで多種多様な沿岸生態系を有することが特徴です。
マングローブ林には水位や塩分濃度が絶えず変化し、水位が低下した際には水温が上昇することが多いとされています。また、水には落葉などの有機物が豊富に含まれ、溶存酸素濃度が低くなるようです。
モーレア島(提供:PhotoAC)こうした厳しい環境にもかかわらず、マングローブ林を多くの生物が利用しています。幼魚にとって、マングローブの根により形成された複雑な立体構造は重要な“隠れ家”なのです。
また、岩礁海岸や砂浜は水温と酸素濃度が安定。岩の亀裂が隠れ家になるほか、砂浜は広い範囲を泳ぎ餌を探すのに適していると考えられています。
様々な環境で見られるシマハギ
シマハギ Acanthurus triostegus は、暖かい海に広く生息する海水魚で、モーレア島では、マングローブ林から砂浜まで様々な環境で見られる種です。
外洋で生まれたシハマギの仔魚は、沿岸部へ移動し透明な仔魚から劇的な変化を経て幼魚へと変態。この間、シハマギには形態、行動、生理機能が変化します。
シマハギの成魚(提供:PhotoAC)これまでの研究によって、環境の違いが魚の変態過程に影響を与えることが示唆されました。例えば、マングローブに定着した魚は成長速度が遅く、体色が濃くなるというものです。
今回の研究では、このような違いが、遺伝子発現やホルモンシグナル伝達レベルでも生じているのか調査が行われました。
異なる遺伝子が発現
研究グループは、シマハギの野生個体と飼育個体の両方を対象に、変態開始8日間にわたり様々な測定を行いました。
その結果、異なる遺伝子が発現していることが判明。このなかには、色素沈着の変化に関わるものなども含まれていたようです。
また、長距離遊泳に適した有酸素代謝から、無酸素代謝への切り替えが起きていることも示されています。
環境が成長に与える影響
さらに、マングローブ、岩礁海岸、砂浜に設置した、一時飼育施設でも同様の測定が行われました。
その結果、生息環境がシマハギの成長や変態の過程に大きな影響を与えていることが明らかに。甲状腺ホルモンの量は成育環境で大きく異なっており、甲状腺ホルモンの経路に関わる遺伝子の発現にも違いが見られたようです。
シマハギの成魚(提供:PhotoAC)また、砂浜に生息するシハマギは、他の環境の同種と比較して、エネルギー消費が高いことを示す代謝パターンも示されました。これは資源の少ない砂浜で、餌を探したり獲物から逃げたりする際に多くのエネルギーを要するためと考えられています。
こうした結果から、シマハギは定着した環境に対して敏感に反応し、発生や成長の過程を環境によって変化させていることが明らかになったのです。
生物は環境に対して敏感に反応している
今回の研究によって、定着した環境が発生や成長を制御するホルモンに影響を与え、シマハギの体に変化を与えていること、これらが環境のよってことなることが明らかになりました。
研究グループは、環境と発生は密接に結びついているとし、環境変化に対し動物が柔軟に対応できるのかという、新たな問いを投げかけるとしています。
(サカナト編集部)