アユは川と海を行き来する両側回遊という生活史をもっていますが、琵琶湖産アユは一生を淡水域で過ごす陸封型です。
この琵琶湖産アユは長年、日本各地に放流されてきました。しかし、放流先のアユ集団へどのような影響を与えるのか考えるうえで重要な「海水への順応能力」は解明されていませんでした。
そうした中で、東京大学大学院農学生命科学研究科の井ノ口繭助教らの研究グループは、塩分調節に欠かせない鰓(えら)の塩類細胞に着目。陸封型アユと回遊型アユの海水への順応能力と水温が及ぼす影響を調査しました。
この研究成果は『Comparative biochemistry and physiology. Part A, Molecular & integrative physiology』に掲載されています(論文タイトル:Temperature-dependent differences in seawater tolerance between amphidromous and landlocked ayu Plecoglossus altivelis.)。
琵琶湖産の陸封型アユ
アユ Plecoglossus altivelis altivelis は川と海を行き来する両側回遊魚で、川で孵化したあと海へと下り、再び海へ戻ります。
一方、琵琶湖産のアユは海の代わりに琵琶湖を利用し、一生を淡水域で過ごす陸封型です。この琵琶湖産アユは長いこと日本各地に放流されてきました。
アユ(提供:PhotoAC)しかし、放流先のアユ集団への影響を考えるうえで重要な「海水への順応能力の違い」については、詳しくわかっていませんでした。
陸封型も海水へ順応できるも時間がかかる
研究グループは回遊型アユと陸封型アユの海水順応能と水温が及ぼす影響を明らかにすべく、両タイプを用いた実験を行いました。
回遊型アユと陸封型アユの稚魚を淡水から海水へ移行する実験の結果、回遊型のアユが9割生き残ったのに対し、生残した陸封型アユは2割以下となっています。
アユ(提供:PhotoAC)また、塩類細胞の観察では、陸封型アユでは海水移行1日目の海水型塩類細胞は低い割合のままだったようです。
こうしたことから、陸封型アユは海水へ順応することができるものの、淡水型から海水型へ切り替えるまで時間がかかることが示されました。
仔魚における海水への順応
自然下で海へ下るタイミングである孵化直後の仔魚についても淡水から海水へ移行し、両タイプで比較が行われました。
比較の結果、陸封型アユにも回遊型アユ同様に淡水中ですでに海水型塩類細胞が発達しており、海へ下る準備をしていることが示唆されています。
また、水温が高い状態で海水へ移行すると生残率が低下することが明らかになりました。
放流先アユに与える影響を考える知見に
今回の研究によって、陸封型アユも海水へ順応する能力を持っているものの時間がかかることが明らかになりました。
また、仔魚においても海へ下る準備をしていることが示唆された一方、水温が高いと生残率が低くなることがわかっています。
この研究成果は、琵琶湖産アユが放流先のアユ集団に与え得る影響を考えるうえで重要な知見になることが期待されています。
(サカナト編集部)