ホラアナゴ科の魚類は多くは深海底に生息し、大型生物の死骸を食べる種も含む、深海生態系における重要な分類群です。
中でも、リュウキュウホラアナゴは、太平洋・大西洋・インド洋に広く分布する広域分布種として知られています。
広域分布種の中には外見で区別の難しい隠蔽種が含まれていることがあり、実際、過去にはリュウキュウホラアナゴから北日本に分布する別種も発見されています。
こうした中で、北海道大学総合博物館の田城文人助教と東海大学海洋学部の髙見宗広講師の研究グループは、10年以上に及ぶ調査により、尾部の太さが大きく異なる2タイプの存在を明らかにし、尾部の細いタイプを新種として記載しました。
この研究成果は『Ichthyological Research』に掲載されています(論文タイトル:A new cryptic species of the deep‑sea eel genus Ilyophis (Synaphobranchidae) discovered within Ilyophis brunneus Gilbert 1891)。
広域分布種のリュウキュウホラアナゴ
ホラアナゴ科の魚は多くが深海底に生息し、一部の種は深海生態系の分解者として重要な役割を担っています。
中でもリュウキュウホラアナゴ Ilyophis brunneus は、太平洋・大西洋・インド洋に生息する広域分布種として知られています。こうした広域分布種には、外見で区別が困難な隠蔽種が含まれているケースも少なくありません。
実際に過去にはリュウキュウホラアナゴの中に北日本に分布する別種が発見されています。
尾部の太さが異なる2タイプ
そうした中で研究グループは、駿河湾産のリュウキュウホラアナゴを観察中に尾部の太さが異なる、太尾型と細尾型の2タイプが存在することに気づきました。今回の研究はこの2タイプに着目したものです。
しかし、2タイプでは標本の大きさにばらつきがあることに加え、標本数の少なさから、両タイプを十分に検証することができなかったといいます。
そこで、研究グループはまず標本数を増やすべく採集調査と標本調査を進めていきました。
南日本におけるリュウキュウホラアナゴの生息水深は約500~2,000メートルと非常に深く、採集は容易ではありません。
一方、東海大学海洋学部には、福井 篤元教授と髙見講師が長年の試行錯誤で築き上げた、小型調査船と小型採集機材による深海魚採集の知見と技術がありました。
そこで、髙見講師が標本の採集を担当することで、年に数回の定期調査を継続し、着実に標本数が増やしていったといいます。
ホソオホラアナゴを新種記載
10年以上にも及ぶ採集調査、標本調査の結果、稚魚から成魚までの80個体を超える形態データが収集されました。
これらのデータにより、リュウキュウホラアナゴの太尾型と細尾型の2タイプは尾部の太さで明瞭に区別されるほか、脊椎骨数、鱗の形、側線管の長さも異なることが明らかに。
さらに、リュウキュウホラアナゴ Ilyophis brunneus のホロタイプは太尾型であることが明らかになり、細尾型は未記載種であることが判明。そこで、研究グループは細尾型を駿河湾、小笠原諸島沖、琉球列島沖から得られた20標本に基づきホソオホラアナゴ Ilyophis fukuii Tashiro and Takami, 2026 を新種記載しました。
駿河湾(提供:PhotoAC)種小名の“fukuii”は、福井元教授の深海魚研究への貢献に称え献名したものとなっています。
今後も広域分布種から目が離せない
今回の研究によって、リュウキュウホラアナゴの隠蔽種が新種記載され、Ilyophis fukui(ホソオホラアナゴ)と命名されました。この成果は、世界中に広く分布する深海魚の中に隠蔽種が含まれている可能性を改めて示すものです。
また、ホソオホラアナゴとほぼ形態が一致する標本が北西大西洋から、DNA 塩基配列がほぼ一致する標本がタスマニア沖などから得られているものの、これらがホソオホラアナゴと同一種かどうか、或いは別の隠蔽種なのかはさらなる研究が必要とされています。
浅海性魚類については、広域分布種が地域ごとに異なる複数種であることが次々と明らかになっています。一方、深海魚が採集の難しさから、まだ研究が十分ではありません。
深海魚の研究を地道に進めることで新たな発見が期待されています。また、深海魚の種や集団を正しく理解することは、水産資源の持続的な利用や保全につながるとされています。
(サカナト編集部)