先日、筆者が訪れた長野県上高地で違和感がありました。梓川では数年前まで赤い斑点のついた魚を見かけることがあったのに、ここ数年はヒョウモン柄の魚しか見かけなくなったのです。
そこで何が起きているのかを調べてみました。すると、もっと大きな魚の歴史があったのです。
約50年前には「上高地のイワナが減り始めている」
「上高地のイワナが減り始めている」
およそ50年前にはすでにそのように言われていたそうです。1981年3月には、環境庁(当時)に「上高地・梓川上流域のイワナに関する検討会」が作られました。
当時の調査によるとカワマスとイワナの交雑種が増え、在来種のイワナが減っていたといいます。それにはもっと以前の事情が関係しているようです(上高地のイワナ – 信州大学)。
梓川に移植放流が始まったのは大正後期
長野県は大正後期から昭和初期にかけて梓川の清流を利用し、イワナのふ化放流や、魚類増殖のためヤマメ、アマゴ、ヒメマス、ニジマス、カワマス、ブラウントラウトの6種のサケ科魚類の移植放流を実施。
1939年には地元の漁業組合が明神池近くにあった県の養魚場を引き継ぎ、カワマスなどの放流を続けていました。
1970年代半ばになると魚類保護の観点から上高地一帯が全面禁漁区になり、放流していた種のうち、外来種のブラウントラウトとカワマスは定着し、さらに近縁種のイワナとカワマスとの間で交雑が進みました。
1981年の「検討会」報告では、当該水域魚類の減少はマイナスであるが、魚類の増加、魚類相の多様化がもたらされるなら、水産資源、レクリエーション資源の面からはプラスに転じていることも多いとされていました。当時の調査ではブラウントラウトの定着は大正池周辺とされていたからです。
しかし、近年ブラウントラウトが生息域を広げ、さらにイワナとカワマスの交雑種に加えて、ブラウントラウトとカワマスの交雑種も増えてきました。
ブラウントラウトはイワナを食べている
最近の調査では、カワマスはイワナと食性および環境の生態的地位が重なること、ブラウントラウトはイワナを捕食することが確認され、これらの影響がイワナの減少につながっていると考えられます(長野県上高地における外来マス類による在来イワナへの影響 – 筑波大学)。
そんなブラウントラウトですが、食資源として活用されています。ニジマスとブラウントラウトの交雑種が養殖用に改良されたのが「信州サーモン」です。
信州サーモンは、特殊な技術によりメスしか存在しません。大きさも通常のニジマスの3倍から4倍と大きく、さらに病気にも強く、ニジマスより細やかな味がして美味しいといいます(名前は、「信州サーモン」です-水産試験場 – 長野県)。
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