フエダイ科のフエダイ属魚類と、フエフキダイ科のフエフキダイ属の魚はいずれも熱帯のサンゴ礁に多い海水魚のグループです。
どちらもタイのような体つきで、吻が長いものが多く、姿が似ていることからしばしば間違われることがありますが、分類学的には異なるグループです。
今回はフエダイ科フエダイ属の魚と、フエフキダイ科フエフキダイ属の魚の見分け方をご紹介します。
フエダイ属の魚は生息域がひろい大きなグループ
フエダイ属はフエダイ科のいちグループで、同科としては最大のグループでもあり、70種以上が知られています。日本からも25種ほどが知られ、フエダイやヨコスジフエダイ、クロホシフエダイ、センネンダイといった重要な食用魚が多く含まれます。
浅海に見られる種が多いですが、ワキグロアカフエダイなど、一部の種は深場から漁獲されます。またゴマフエダイやオキフエダイ、ニセクロホシフエダイなどのように、幼魚が汽水域に入るような種もいます。飼育は容易で、色彩が美しい種も多いため、水族館ではよく見られます。
幼魚は死滅回遊魚として南方性の個体でも、夏から秋にかけて関東地方の沿岸で幼魚が見られます。しかしながら、ヨコスジフエダイのように温帯性の種で、琉球列島には分布しないような種も数は少ないですが知られています。
別名・地方名としては「たるみ」と呼ばれたり(実際にフエダイ科はかつて「たるみ科」と呼ばれた)、特定の種については「しぶだい」(フエダイ)、「もんつき」(クロホシフエダイ)、「あかいさき」(ヨコスジフエダイ、標準和名でアカイサキという魚とは別種)、「びたろー」(オキフエダイなど、沖縄で小型のフエダイ科魚類を指す)などがあります。
フエフキダイ属の魚はサンゴ礁や岩礁域でみられる
フエフキダイ属はフエフキダイ科のいちグループで、またフエフキダイ科としては最大のグループであり、30種ほどが知られています。うち日本からも20種が知られています。主にフエフキダイやハマフエフキ、キツネフエフキといった種は市場価値が高いです。
基本的にサンゴ礁や周辺の砂地、岩礁域などの海域に見られ、汽水域では少なくとも私は見たことがありません。浅海にすむものが多いのですが、一部の種は水深100メートル以深からも漁獲されています。
別名・地方名としては「たまみ」「たまめ」などと呼ばれるほか、口腔内が赤くなるものがいることから「くちび」などと呼ばれています。沖縄ではハマフエフキを「たまん」と呼ぶほか、イソフエフキなどを「くちなじ」または「くちなぎ」と呼んだり、小型のフエフキダイの総称として「むるー」と呼んだりしています。
見た目はフエダイ属とフエフキダイ属はよく似ていますが、別科の魚です。またNelson et al.(2016)では、フエダイ科をスズキ目、フエフキダイ科をSpariformes(タイ目としておくべきか)に含めるなどしていますが、分子分類による分類はまだまだ途上にあるため今後さらに変更になる可能性も大きいので注意が必要です。
フエダイ属の魚とフエフキダイ属は頭部の鱗と分布域で見分ける
先述の通り、フエダイ属の魚とフエフキダイ属の魚は別科の魚です。
しかし、見た目や名称がよく似ていることから混同されてしまうことも少なくありません。この項では、フエダイ属の魚とフエフキダイ属の魚の違いや見分け方を紹介します。
頭部の鱗の違い
フエダイ科フエダイ属の魚とフエフキダイ科フエフキダイ属の魚を見分けるのには、頭部の鱗を見るのが簡単です。
硬骨魚類の鰓蓋は一般的に主鰓蓋骨(鰓に水をおくるために開く)、前鰓蓋骨(主鰓蓋骨よりも前にある)、その間に間鰓蓋骨がありますが、この二つのグループを見分けるのには前鰓蓋骨よりも前の鱗の有無が重要となります。
フエダイ属の魚は前鰓蓋骨より前方も鱗に覆われているのですが、フエフキダイ属の魚は前鰓蓋骨よりも前方の頭部に鱗がないことにより、フエダイ属とフエフキダイ属は容易に見分けることができるでしょう。
フエフキダイ属でなくフエフキダイ科の魚には、前鰓蓋より前方に鱗があるものがいるので注意が必要です。それが、メイチダイなどが含まれる、ヨコシマクロダイ亜科の魚です。
フエフキダイ科はフエフキダイ亜科とヨコシマクロダイ亜科に分かれますが、フエフキダイ亜科はフエフキダイ属のみなのに対し、ヨコシマクロダイ亜科の魚はヨコシマクロダイ属・メイチダイ属・コケノコギリ属・ノコギリダイ属の合計4属からなります。
うち10数種の知られるメイチダイ属をのぞき、1属1種または2種と少なく、種の総数ではフエフキダイ亜科の方がずっと多いです。またヨコシマクロダイ亜科の魚は吻が丸みを帯び、近縁の科とされるタイ科に似た雰囲気があります。
分布域の違い
フエダイ科の魚はインドー中央太平洋域だけでなく、東太平洋や大西洋の熱帯および亜熱帯海域に広く分布するのに対し、フエフキダイ科の魚はインド洋から西ー中央太平洋に広く分布するものの東太平洋と西大西洋沿岸には一切見ることができません。東大西洋やハワイ諸島にもそれぞれ1種のみが見られるだけです。
東大西洋のフエフキダイ科魚類(であると同時に大西洋唯一のフエフキダイ科魚類)はフエフキダイ亜科・フエフキダイ属のLethrinus atlanticusと呼ばれるもので、全長35センチほどになる小型種です。
この種もほかのフエフキダイ属魚類とはこまかな違いはもちろんあるのですが、概ね、インド-中央太平洋海域に分布しているフエフキダイ属の魚と外見上大きな違いはないといえます。
ハワイ諸島の唯一のフエフキダイ科魚類というのはヨコシマクロダイ亜科・ヨコシマクロダイ属のヨコシマクロダイで、この種は日本をふくむインド-太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布しています。
フエフキダイ科のフエフキダイ属、たとえばハマフエフキやタテシマフエフキ、マトフエフキなどの種もインド-太平洋に広く見られますが、どういうわけかフエフキダイ属の魚はハワイ諸島には分布していません (あるフエフキダイ属の種が分布しているとした文献もありますが疑わしい)。
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