キャビアはチョウザメの卵です。高級品かつ外国産のイメージがあるのではないでしょうか。でも実際には、国内でチョウザメを養殖し、キャビアを製造販売している会社もあるのです。
今回は、島根県邑南(おおなん)町でキャビアを製造・販売している株式会社セレビアの小笠原さんに、チョウザメの養殖について聞いてみました。
チョウザメの養殖 軌道に乗るまで10年近く
━━チョウザメの養殖を始めたきっかけを教えてください
2005年に、当時は建設業を営む会社としてチョウザメの養殖を始めました。地方では公共事業費がカットされ、このままでは経営困難になる恐れがあったため、何か珍しく印象強い、新たな事業ができないかと調べた結果、ネットで「チョウザメ」という文字を目にし「これだ!」と本格的にチョウザメの養殖を始めました。
元々建設業ということもあり、池を作ることはスムーズに進みましたが、当初は失敗の連続。養殖が軌道に乗るまでに10年近くの年月がかかりました。その間には仕入れた稚魚が全滅状態となったこともあります。
2009年に待望のキャビア製造・販売を開始。2014年に株式会社セレビアを設立、キャビアの製造・販売を分業化し、現在に至ります。
稚魚を含めて約1万匹を淡水で養殖
━━どのような環境で、何匹くらい養殖されていますか?
島根県邑南町は自然に囲まれた山間にあります。町を流れる出羽川では、国の天然記念物である「オオサンショウウオ」が生息できるほどきれいな水と豊かな自然環境が整っています。
チョウザメは魚種によって卵を持ち始める時期が異なり、長いものでは20年近くかかる種もいます。自然豊かな環境で何年もの歳月をかけてゆっくり育てています。
当社では稚魚を含めて約1万匹を養殖。池の数は大小合わせて50基弱、7種類のチョウザメ(ベステルチョウザメ、シベリアチョウザメ、シロチョウザメ、アムールチョウザメ、ロシアチョウザメ、コチョウザメ、ベルーガチョウザメ)を養殖しています。
抱卵魚は1匹づつお腹を触って探す
━━卵はどのようにして採るのですか? また、何回か採れるのでしょうか?
キャビアはお腹の中でしっかり成熟させます。卵の成熟度は外から観察することができないため、1匹づつ卵を採取し、ある計算式を用いて成熟度を計算しています。
「過熟」と判断した卵は無理に製造を行わず、次期に卵を持つ年(おおよそ2年後)まで見送ります(成熟したチョウザメは一生に何度も卵をもつ。個体にもよるが2〜3年に1回のペース)。
当社ではキャビアを製造するときに締めますので、1匹に対して採るのは一度きりです。
チョウザメの「完全養殖」まであと数年
━━今後の展望を教えてください。
当社では、島根県邑南町で「育(育ち)」「授(授かる)」「誕(誕生)」繋がりつづけるチョウザメでの完全養殖による販売を目指しています。稚魚を含めて1万匹の養殖と言っても、養殖場としては小規模です。
生産量ではない独自の強みとして、2014年には他社ではあまり養殖されていない、アムールチョウザメの種苗生産を開始し、現在ではシベリアチョウザメ、シロチョウザメ、コチョウザメを含む4種類の種苗生産に成功しています。
島根県で生まれ育ったチョウザメを日本各地、世界各地にお届けしていきたいと思います。
チョウザメ養殖の未来
この記事では、チョウザメ養殖をしている島根県邑南町の株式会社セレビアさまにインタビューを行い、日本におけるチョウザメ養殖のひとつの事例としてお伝えしました。
日本ではチョウザメ養殖が活発になってきており、キャビアだけでなく“ブランドチョウザメ”として魚肉の販売を始めている会社もあります。株式会社セレビアさまでも実際に、魚肉の缶詰や燻製を販売中とのことです。
今後さらにチョウザメ養殖が活発になれば、新たなチョウザメ産地として日本が加わる日も近いのではないでしょうか。
(サカナトライター:ミドリフサあんこ)