五島列島にすんでいる筆者は幼少期に、五島の海の中を観察することのできる半潜水式グラスボード「シーガル」に乗せてもらったことがあります。その時に見た、たくさんの魚の群れと珊瑚たちに感動した記憶が鮮明に残っています。
先日、そんな思い出の海を眺めた「シーガル」に数十年ぶりに乗る機会がありました。ワクワクしながら出航を待っていたのですが、心なしか、幼少期に見た景色よりも珊瑚や魚の数が減っているように感じました。
実際、“五島の海事情”を調べてみると、昔は毎日数十トン水揚げされていたスルメイカが、今ではほとんど水揚げされなくなったり、逆にイワシが多く獲れすぎてしまうなど、五島列島の海はここ数十年で環境が大きく変化している現実があります。
特に稚魚や稚貝が育つために必要な海藻が減少していく「磯焼け問題」と、それを引き起こす「未利用魚」に分類される魚たちの使いみちが大きな課題となっており、この問題を解決できるよう五島列島の漁師達は日々模索しているのです。
なぜ海藻が減少しているのか?
海藻が減少していく「磯焼け」の大きな要因は、海の温暖化によりニザダイやイスズミといった海藻を好む魚が年間を通して活動するようになり、藻場を食べ尽くしてしまうことにあります。
この影響はすさまじく、1993年には年間300トンのヒジキが獲れていたにもかかわらず、2006年の出荷量は一桁まで落ちてしまいました。

磯焼けと同時に問題になっているのは、未利用魚の問題です。
未利用魚とは、サイズが小さかったり傷物といった理由で市場に出回らない魚のことですが、特に「磯焼け」の原因となる海藻を好む魚たちが問題で、出荷に十分なサイズであっても未利用魚に分類されてしまうのです。
これは、水揚げ後の迅速な処理が難しいことが大きな理由だそう。
海藻を好む魚は水揚げしてすぐに処理を行わないと、胃の中で海藻が発酵し匂いがきつくなり、食べられなくなってしまいます。
そのため、他の魚に混じって水揚げされても、すぐに海に逃され、増え続ける一方……。磯焼け問題をさらに悪化させてしまっているのです。
「磯焼け問題」と「未利用魚問題」への様々な対策
「磯焼け問題」と「未利用魚問題」を解決するべく、五島列島では様々な対策を行っています。
磯焼けバスターズの結成と「五島モデル」の実施
磯焼け対策「五島モデル」として、まずは五島列島の海の調査を行い、外洋と湾内向けの2つの対策マニュアルを策定。外洋では海藻を好んで食べる魚たちを対象としたトラップを仕掛け駆除、湾内では磯焼けの問題となる「ガンガゼ」を対象に駆除を進めていきました。

さらには、磯焼け対策のノウハウや技術を持つ、漁師さん達を中心に「磯焼けバスターズ」を結成し、他の集落の磯焼け対策に協力しています。
このような努力が功を奏してか、2022年には13ヘクタールの藻場の回復に成功しました。
地元企業の努力で未利用魚を活用へ
昨今、さまざまな地域で注目されている未利用魚。磯焼けを起こす未利用魚に悩む五島列島も例外ではありません。
磯焼けの原因となるものの、処理が難しく多くが未利用魚となってしまう魚たち。例えばある企業は「すり身」として商品化したり、魚醤として商品化したりと、未利用魚を1匹でも無駄にしないよう、さまざまな地元企業が日々研究を重ねています。
市場に出すのが難しくても、うまく処理して未利用魚を減らし、さらに五島列島の宣伝となる良い取り組みだと感じます。
五島列島の自然を次世代へ
地元の人たちは、五島列島の海の平和を誰よりも望んでいます。筆者もそのうちの1人です。
この豊かな自然を、五島列島に暮らす人々だけでなく、訪れる人たちや未来の世代にまで届けられるよう、私も小さいながらもできることを続けていきたいと思います。
(サカナトライター:ティガ)