四方を海で囲まれた日本では様々な海産物が漁獲されます。漁獲される魚の中には致死率の高い毒を持つ種が混ざることもあり、場合によって流通が禁止されることもあります。
一方、強力な毒を持たないにもかかわらず、流通が禁止されている魚がいるのをご存じでしょうか。
人間には消化できないワックスエステル
ワックスエステルとはいわゆる蝋のことであり、特定の魚の脂肪に多く含まれいます。この物質は人体で消化できないため、大量に摂取していまうと嘔吐や腹痛、皮脂漏症と呼ばれる肌から油が漏れ出す症状に見舞われるのです。
日本で流通する魚の中でワックスエステルを持つ魚は深海魚を中心に数種知られており、一部は流通禁止、または条件付きで流通が認められています。また、この成分は垂直移動の多い魚によく見られる特徴の一つとのことです。
ワックスエステルといえばバラムツとアブラソコムツ
脂肪にワックスエステルを多く持つ魚として有名なのがバラムツとアブラソコムツです。
どちらもクロタチカマス科に属する大型魚で、世界中の温帯・熱帯域に生息します。通常、深場にいますが夜間になると浅海域に出現することもあり、夜釣りや深場の釣りの他、定置網や底引き網で漁獲されるとこもあるそうです。大型かつ様々な漁法で漁獲があるものの、ワックスエステルを多く含むことから日本で流通が禁止されています。
ただバラムツについては、なんと台湾で「油魚」と呼ばれ、食用として流通しているのです。台湾ではバラムツを刺身や味噌焼きで食べる他、東港の特産品である油魚子(バラムツの卵巣で作ったからすみ)は「東港三宝」の一つに数えられます。
マトウダイの近似種?オオメマトウダイ
オオメマトウダイはマトウダイ目オオメマトウダイ科に属する魚で、日本からはオオメマトウダイ1種のみが知られています。北海道~茨城県の水深360~860メートルに生息する深海魚で主に底引き網で漁獲されるようです。
本種もワックスエステルを多く含むことから東京都通知により流通に条件が付けられているもののバラムツやアブラソコムツのように禁止されている訳ではありません。
あくまでも生の状態での流通が禁止されており、加工品の流通は問題なく干物や練り物の流通は認められています(東京都保健医療局 東京都通知により措置が定められた魚介類(厚生労働省通知により措置が定められた魚介類を除く))。
しかし、本種の加工品は「マトウダイ」という名で流通することが多いため、本物のマトウダイと誤解しないように注意が必要です。マトウダイとは皮が黒く、ややざらつきがあること、筋肉に多く脂肪が含まれることなどから区別することができます。
小さくても脂が豊富なハダカイワシ
ハダカイワシは深海に生息する小型魚で、鱗が剝がれやすいことからこのような名前が付きました。資源量が多く中型・大型魚の餌生物として非常に重要な役割を果たしています。
本種は主に底引き網、サクラエビ漁、定置網で漁獲され、底引き網で漁獲される大きな個体は食用になります。高知や三重では本種をヤケドと呼び、比較的大型になるハダカイワシやメハダカを干物にしたものがちょっとした名物です。
魚の毒というとフグ毒やアイゴの針毒をイメージしがちですが、今回の魚たちのように蝋が我々に悪影響を及ぼすこともあるのです。脂肪を多く含む魚は美味ですが、食べすぎると大変なことになってしまうので気を付けましょう。
(サカナト編集部)