初心者向けのウツボの仲間3選
ウツボの仲間は種類は多いのですが、初めて飼育する人でも飼いやすい種といえるものについては、いくつか条件があります。
まず、丈夫であること。次に、25℃程度の水温で問題なく飼育できること。そして、超大型にならないことです。
クモウツボ Echidna nebulosa(Ahl, 1789)
ウツボの仲間飼育初心者に強くおすすめしたいのが、クモウツボです。この種は黄色い眼と鼻管が目立ち、体側には暗色の斑点があり、その中に黄色(もしくは白色)の斑点という模様が入るという綺麗な色彩をもつため人気があります。
海水魚専門店ではしばしば入荷しますので入手も容易であり、そして何より飼いやすく、初心者に最適な種であるといえるでしょう。また高知県以南の海では採集することも可能で、写真の個体は筆者自身が磯の潮だまりで採集したものです。

一般的にウツボの仲間といえば「海のギャング」とか「獰猛な性格」というイメージがもたれやすいのですが、本種はそのようなイメージからかけ離れた姿をしており、その可愛さから女性のファンも多いです。とくに筆者の母は、このクモウツボを寵愛していました。
クモウツボはウツボの仲間を飼育するうえで入門種として最適であり、本種でウツボの仲間の飼育の基本を覚えるとよいでしょう。
クモウツボと同じアラシウツボ属の魚ではほかにも汽水域に入るナミダカワウツボや、体側に横帯をもつシマアラシウツボ、大西洋産のチェインモレイなどが知られており、飼育しやすい種が多いです。
ただしこれらの種のうち、ナミダカワウツボは淡水魚として熱帯魚店で販売されることもあるものの、実際には純淡水での長期飼育はできず(調子をくずしやすい)、塩分を多少必要とする点に注意が必要です。
サビウツボ Gymnothorax thyrsoideus(Richardson, 1845)
クモウツボの次に飼育におすすめのサビウツボ。細かい模様があり、頭部にかけて褐色から紫色に変化する体色もおしゃれ。そして眼が白いというちょっと変わった色彩をしています。
クモウツボのようにカラフルなものではないのですが、こちらも人気がある種です。

ウツボ科としては比較的おとなしい性格ですが、鋭い歯を有しており、かまれると怪我をするおそれがあります(筆者は実際にかまれ怪我をしたことがある)。大きいものは全長60センチになることもあります。
よく似たものとして体中に小さな斑点がちらばるアセウツボや、西インド洋や紅海にすみ、頭部に黒い斑点が入るジオメトリックモレイなどが知られていますが、これらの種は従来はSiderea属とされ、ウツボ属とは別属として扱われてきたことがあります。
これらの種は潮だまりで見られることもあり、水質や水温の変化にも(比較的)強い、強健な種といえます。
ウツボ Gymnothorax kidako(Temminck and Schlegel, 1846)
種の標準和名ウツボも飼育に向いています。
温帯性の魚のため、あまりにも高水温が続くと厳しいですが、25℃程度であれば普通に飼育することができ、丈夫で飼いやすい種といえます。
ただし歯は鋭く、かまれると大けがをするおそれもありますので、絶対に素手で餌を与えたりしないようにしましょう。関東沿岸でも見ることができ、採集することもできます。
ウツボ属の魚ではこのほかヘリゴイシウツボやモバウツボといった種も初心者向けであるといわれますが、筆者はこれらの種の飼育経験はなく、ここでは省略します。
飼育が難しいウツボの仲間
一方、ウツボの仲間としては飼育が難しいものも知られています。
「リボンイール」「リノムレーナ」ことハナヒゲウツボは性転換をするウツボ科魚類として知られ、それに伴い未成熟期は黒、雄の成魚は青色、そして雌の成魚は黄色と、成長と共に体色を変化させます。

見た目は美しく繊細な種で、ダイバーやアクアリストに親しまれている種類ではありますが、本種は性格についてもまた繊細であり、初心者には飼育は難しい種だといえます。
飼育サイトなどにおいて、ハナヒゲウツボを「小型種で飼育におすすめなウツボの仲間」と紹介していることもありますが、実際にはその細長い体は1.2メートルを超えるくらいにまでなり、小型水槽では飼育しにくいところがあります。

このほか、ドクウツボやニセゴイシウツボ、インディアンモレイ、グリーンモレイといった2メートル近くになるような種についても、初心者には飼育が難しいといえるでしょう。
大型になる種は当然大型水槽が必要になり、飼育に必要な器具も大掛かりなものが必要となるからで、初心者には難しいところが多くあります。
多くの魅力をもつウツボ。ぜひ一緒に暮らす家族として迎えてみてはいかがでしょうか。
(サカナトライター:椎名まさと)
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