仔魚は孵化直後の鰭条が未発達のステージであり、成魚とはかけ離れた形をしていることが多いです。一方、稚魚は鰭条数が成魚と同じになったステージのことで形は成魚と似ています。一般的な言葉ではありませんが、仔魚と稚魚を合わせて仔稚魚と呼ぶのです。
日本では仔稚魚を食べる文化が各地で継承さてれおり、仔稚魚を専門に狙った漁業も盛んに行われています。
各地で愛されているシラス
スーパーや魚屋へ行くと必ずと言っていいほどよく売られているシラスはイワシ類(カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシ)の仔稚魚です。
日本では神奈川県、静岡県、高知県、兵庫県などでシラスを専門に狙う漁業が行われており、各地で特産品として親しまれています。神奈川県で漁獲される「湘南しらす」は全国的にも有名であり、「かながわの名産100選」の他、春のプライドフィッシュにも選定されています。(湘南しらすープライドフィッシュ)
神奈川県のシラスは主にシラス網漁と地引網漁で漁獲され、アユの稚魚を保護するために定められた1~3月の禁漁期間を除き、通年漁が行われています。神奈川県のシラス漁では3種のイワシが漁業対象となるものの、近年だとカタクチイワシの割合が多いそうです。
神奈川県のしらす漁師は6次産業を取り入れており、漁獲されたシラスは鮮度の良いうちに加工され、生しらすをはじめ釜揚げしらす、畳いわし、ちりめんなどに加工した後に販売されています。鮮度の低下が著しく早いシラスを生で食べられるのは産地ならではです。
今では稀少なイカナゴの稚魚
イカナゴは日本各地で漁獲のある魚であり、瀬戸内海、北海道で漁業が盛んに行われています。特に西日本のイカナゴは有名であり、瀬戸内海で操業されるイカナゴ漁は春を告げる風物詩と言えるでしょう。
瀬戸内海沿岸ではイカナゴの成魚をフルセ、稚魚をシンコと呼び、シンコは釜揚げやちりめんに加工されています。また、シンコの佃煮「くぎ煮」は郷土料理として全国的に知られていますね。
しかし、近年では漁獲量が著しく減少しており、先日、大阪湾では今年のイカナゴを見送る結果となりました。(イカナゴのシンコ漁、大阪湾で自主休漁へ 試験操業の結果低調-毎日新聞)
一見魚には見えない?アナゴの稚魚のれそれ
のれそれとはアナゴ類の仔魚のことで、大きさは数センチから1メートル程と仔魚にしては大きいことが特徴です。
主にシラス漁の混獲物として漁獲があり、高知県はのれそれの産地として非常に有名。全国的に使われているのれそれという呼び名は元は高知県で使われている地方名です。他にも各地で呼び名があり、はなたれやべたらなどユニークな名を持ちます。
のれそれは名前もさることながら形態も非常にユニークな魚です。細長い体は成魚と共通しているものの強く側偏した体側部は非常に特徴的であり、初めて見た人はのれそれがなんの仔魚なのか見当も付かないことでしょう。
このステージを学術的にはレプトケファルスまたはレプトセファルスと呼び、アナゴ科の魚以外にも他のウナギ目魚類やソトイワシ科、ソコギス科の魚など多くの分類群がレプトセファルス期を経て成魚になります。
のれそれは刺身や天ぷら、卵とじなど様々な料理で食べられていますが、生で食べたときの風味や食感は唯一無二なので食べたことがない方はぜひ試してみてください。
このように日本には仔稚魚を食べる文化が全国に根付いているのです。仔稚魚は鮮度の低下が早いので産地へ足を運んで食べてみるのも良いかもしれませんね。
(サカナト編集部)