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魚も人間と同じで病気になる? 養殖魚にワクチンが必要なワケとは

天然物の漁獲量が減少傾向にあるわが国では養殖業が盛んで、日本全体の魚の生産量の半分近くを占めます。日本人に馴染み深いマダイに至っては大部分が養殖ものです。

最近、養殖魚の餌であるカタクチイワシが高騰したことは記憶に新しいですが、養殖業を取り巻く問題は餌代だけではありません。

この記事では養殖における魚病(ぎょびょう)についてご紹介します。

養殖魚がかかる主な魚病

養殖場(提供:PhotoAC)

我々人間や、犬・猫が病気になるイメージは容易に付きますが、魚が病気になることを想像できる人は少ないのではないでしょうか? 養殖魚がかかる病気は大きく細菌、寄生虫、ウイルス由来の3つに分けられ、いずれも養殖業に大きな被害を与える要因になります。

ビブリオ病

ビブリオ病はビブリオ病属細菌由来の魚病の総称で、海中に存在するビブリオ属細菌が原因です。サケ・マスが感染する病気として有名ですが、淡水・海水魚問わず宿主になることが知られています。中でもアユは感受性が高く、1970年代はアユのビブリオ病が問題となりました。

ビブリオ病の症状は体表の出血や潰瘍、腹部膨満など外部からでも見つけることができます。1988年に承認されたアユのビブリオ病ワクチンは、国内で初めて認可された水産用ワクチンです。

(参考:ビブリオ病 Vibriosis of Fish and Shellfish in Japan

このワクチンはアユ、サケ科、ブリを対象に浸漬法(しんしほう=液体にひたす方法)で投与しています。この方法では小さいうちから多くの魚に投与できることがメリットです。

マダイイリドウイルス病

マダイイリドウイルス病はイリドウイルス科に属するウイルスが原因とされる病気です。この病気は1990年夏~秋にかけて四国の養殖場で最初に発生し、マダイを大量死させました。

マダイイリドウイルス病という名がついてるものの、マダイ以外にも感染することが知られており、アジ科、ヒラメ科、ハタ科など水産上重要な魚種の多くで感染する可能性があります

症状は魚体が黒化し弱々しく泳ぐこと、鰓の一部からの出血、内臓の褪色など多岐にわたるようです。薬剤などによる治療が難しいことからワクチンの開発が求められ、1999年にマダイの稚魚を対象にした「イリドウイルス感染症不活化ワクチン」が販売。現在はブリ属魚類にも使用されています。

(参考:1. マダイイリドウイルス病

魚病による損害は推定100億?

魚病による大量死の損害はもちろんのこと、病気の痕跡は魚の商品価値を著しく低下させてしまいます。

近年における魚病の被害額は100億円にも及び、産出額の3割にも達するそうです(魚病をめぐる現状-農林水産省)。養殖場では水産用医薬品による治療やワクチンによる予防、飼育環境の管理などをおこなっています。

魚にワクチンは投与する方法

ワクチンを投与する方法は注射法、浸漬法、経口法の3つ。特に注射による投与は薬の量が少量で済むことや、1匹1匹に確実に投与できることから近年では増加傾向にあるようです。また、稚魚のうちからワクチンを投与することにより薬剤の残留がないこともメリットとされています。

一方、ワクチン投与中に誤って人に刺してしまうことがたびたび発生する問題があるようです。ブリのワクチンなどでは誤って人に刺してしまうと腫れやしびれ、最悪の場合手術が必要になり、薬の安全性だけではなく作業中の安全性も求められています。

鹿児島大学などの研究チームはノルウェーの会社が製造したワクチンを投与する機械を試験的に稼働。17,000匹の稚魚にワクチン接種を行いましたが、誤って人に刺すことはありませんでした(養殖ブリワクチンの接種機械「メリット説明し普及に努めたい」-NHK)。

中にはワクチンを打った魚を食べることに抵抗がある方もいるようですが、健康的な魚を消費者に届けるため、養殖業を持続していくためには必要不可欠なことなのです。また、水産用医薬品は国からの承認が必要なため安全性が保障されたもののみが使われているので、我々は安心して美味しい養殖魚を食べることができます。

(サカナト編集部)

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