自然界では「食べる・食べられる」の関係がありますが、被食者の中には命からがら捕食者から逃げ切る個体も存在します。
こうした行動は、逃げさせる効果(非消費的効果)と呼ばれ、捕食者は被食者の行動や分布を変化させます。これは比較的観察が容易な陸上生物ではよく観察されている一方、海洋生物では観察が難しく、これまで非消費的効果はほとんど確認されていませんでした。
そうした中で、国立極地研究所の渡邊日向特任研究員、高橋晃周教授、京都大学の高木淳一特任助教の研究チームは、バイオロギングを用いた調査で、アデリーペンギンがナンキョクアオキアミを捕食する行動を詳しく解析しました。
この研究成果は「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されています(論文タイトル:Emergence of functional prey depletion halo through penguin–krill behavioural dynamics)。
<逃げさせる効果>は陸上生物でよく確認
自然界では捕食者と餌生物による食うと食われるの関係があります。
しかし、これら以外にも被食者が捕食者によって分布や行動が変化する「逃げさせる効果(非消費的効果)」といものが知られています。この効果は陸上生物でよく確認されていた一方、観察が難しい海洋生物ではほとんど確認されていませんでした。
アデリーペンギン(提供:PhotoAC)そうした中で研究グループは、アデリーペンギン(以下、ペンギン)に繰り返し追われたナンキョクオキアミ(以下、オキアミ)は、深い場所や遠い場所へ逃げることで、ペンギンに捕食されにくくなるのではないかと考えたようです。
南極で「逃げさせる効果」が生じているのかを確かめるべく、ペンギンに小型行動記録計を装着したバイオロギング調査が行われました。
アデリーペンギンに小型行動記録計を装着
調査は第60次南極地域観測隊において、昭和基地付のアデリーペンギン繁殖地で行われました。
この海域では、海面が厚い氷で覆われており、ペンギンが海氷の割れ目まで歩いて移動し、氷下に潜ってオキアミを捕食することが知られています。
研究グループは、ここのペンギンに小型行動記録計を装着し、ペンギンがどのように氷の下を移動し、いつオキアミを捕まえたのかを可視化しようとしたのです。
オキアミの逃避行動を調査
今回の研究では、得られたデータから3つの指標に着目しています。
1つ目は「ペンギンがオキアミを捕まえた水深」、 2つ目は「氷の割れ目からオキアミを捕まえるまでの距離」です。
オキアミがペンギンに反応して逃げる場合、この2つの指標は次第に大きくなることが予想されました。
また、ペンギンが遭遇したオキアミの群れの密度を反映する指標として、「オキアミの群れに辿り着いたあとの単位時間あたりの捕食回数」も調査されています。
オキアミは深く遠くへ移動する?
調査の結果、ペンギンが繰り返し潜水するにつれ、オキアミを捕らえる深さ次第に深くなること、氷の割れ目からオキアミへ到達する距離も長くなることが確認されました。
一方、オキアミの群れの密度を示す指標に変化は見られなかったようです。これらのことは、オキアミの数が大きく減少したのではなく、ペンギンがオキアミにアクセスしずらくなった可能性を示しています。
繁殖地ではオキアミを捕らえにくくなっている
また、繁殖地に近い割れ目ほど、ペンギンはより深くまた、より遠くまで潜る必要があったとのこと。
一方、オキアミの群れの密度を示す指標は、繁殖地からの距離によって変化がないことから、繁殖地周辺ではオキアミの数が大きく減少したのではなく、オキアミへのアクセス性が低下した可能性が示唆されました。
つまり、繁殖地周辺では多くのペンギンが繰り返し採餌を行うため、オキアミが逃避行動を重ねた結果、ペンギンにとってオキアミを捕まえにくくなる現象が生じた可能性が示されたのです。
捕食者と餌生物の関係理解へ
今回の研究によって、アデリーペンギンが繰り返し採餌をすることで、オキアミが深く遠くに移動し、捕らえにくくなることが明らかになりました。これにより、海でも逃げさせる行動によって餌の利用しやすさが変化することが示されたのです。
また、これまで海鳥繁殖地において、餌が捕らえにくくなるのは食べ尽くしによるものだと考えられていましたが、この結果は捕食回避行動によっても餌が捕らえにくくなることが示されました。
今後も、研究を重ねることによって、「食べる、食べられる」の関係をより深く理解できると期待されています。
(サカナト編集部)