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個性的な<サザエのとげ>はなぜ生まれる? 「日本海のサザエはとげが発達しやすい」は本当か

スーパーの鮮魚コーナーでサザエを手に取ったとき、「あれ、形が違う」と思ったことはないでしょうか。

ごつごつしたとげが目立つものもあれば、つるりとした丸みのある殻のものもいます。同じサザエなのに、なぜこれほど見た目が異なるのか、不思議に思う人も多いはずです。

この「とげのあるなし」は、実はサザエが育った海の環境と深い関係があります。

瀬戸内海のサザエはとげが少なく、日本海のサザエはとげが発達しやすい──そんな傾向が古くから知られており、1940年代にはすでに研究者がその地域ごとの分布を調べて報告しているのです。

サザエのとげは「有棘型」と「無棘型」に分類

とげのあるサザエを「有棘型(ゆうきょくがた)」、ないものを「無棘型(むきょくがた)」と呼びます。

見た目はずいぶん違いますが、どちらも同じ種です。

有棘型のサザエ(提供:PhotoAC)

ちなみに、サザエの学名「Turbo sazae」は2017年になってようやく正式に命名されたもの。それ以前はこれほど身近な貝に有効な学名がなかったというのも、驚きの話です。

とげの形成は置かれた環境による?

とげは殻の成長とともに少しずつ形成され、その発達には約15日ほどかかるとされています。

おもしろいのは、とげのあるサザエを水槽に移して育てると、その後に伸びた部分にはとげが出なくなること。逆に、とげのない個体を外海に放すととげを形成することも確認されています。

無棘型のサザエサザエ(提供:PhotoAC)

つまりとげは、生まれつきの形質というよりも、置かれた環境に応じて変わる、ある種の“応答”のようなものだと考えられています。

波の強さととげの発達の関係

荒波にさらされるととげが育つのはなぜか。

とげは岩礁に引っかかり、波に流されないための「錨」のような役割を果たすと考えられています。外海では波が強いほどとげが有利にはたらくため、結果として有棘型が多くなる、という理屈です。

1940年代の調査では、日本海側のサザエはほぼ100%が有棘型、瀬戸内海側はほぼすべてが無棘型だったと報告されています(柳本ほか2022年、論文中に引用されている先行研究より)。

瀬戸内海は四方を陸に囲まれた穏やかな内海で、とげを必要とする場面が少ない環境です。日本海は季節風による波浪が強く、岩場に踏みとどまる力が求められます。

ただ、「荒海=とげあり」という図式が常に成り立つわけではありません。実際に、太平洋側の荒磯でもとげのない個体が見つかったり、穏やかな内湾でとげありが混じったりするケースが知られています。

2022年発表の研究では、日本のサザエにはミトコンドリアDNAの分析から「日本海〜東シナ海型」と「太平洋〜瀬戸内海型」の2つの遺伝的グループがあることが示されており、とげの有無には波の環境だけでなく遺伝的な背景も影響している可能性が指摘されています(柳本ほか 2022年)。

つまり、「とげあり=外海育ち」はあくまで傾向であって、例外も存在しています。

とげの違いは味に関係しない─注目すべきは性別

「とげがあるほうが美味しそう」と感じる人は多いようですが、実際のところ、とげの有無が味や食感に影響するという根拠は今のところ見つかっていません。

見た目の印象と中身は、必ずしも一致せず、それよりも性別の違いが味を左右するとされています。

殻から身を取り出したとき、いちばん奥の渦巻き部分の生殖腺、いわゆるワタの先端の色を見て、クリーム色ならオス、緑色ならメスです。苦みが強いのはメスで、ほろ苦さが得意でない方にはオスのほうが食べやすいといわれています。

産地によっても違いあり

日本海側は全体的に小ぶりなものが目立ち、太平洋側では大きく育つ傾向があります。

また、何を食べて育ったかで殻の色が変わります。アラメを多く食べると白っぽい殻に、ホンダワラが多いと褐色がかった殻になるそうです(京都府水産事務所「丹後の海の生き物サザエ」)。

同じサザエでも、育った環境によってずいぶん異なる顔を見せてくれます。

瀬戸内海・日本海それぞれのサザエ食文化

「つぼ焼き」はどの産地でも親しまれている定番メニューですが、地域ごとに少しずつ違います。

サザエのつぼやき(提供:PhotoAC)

瀬戸内海沿岸では無棘型が当たり前の光景なので、地元の人にとってはとげのないサザエのほうがむしろなじみ深く、身が柔らかくて食べやすいと好む声もあります。

一方、日本海側、とくに能登や山陰では、ごつごつしたとげのあるサザエが店頭に並ぶのが普通で、磯の風味が強いとして根強いファンがいます。また、市場ではとげありのほうが見栄えがよいとして高値になることもあります。

産地を問わず、流通するサザエのほとんどは天然もので、海女漁や見突き漁(箱眼鏡で海底をのぞきながら竿で獲る漁法)によって漁獲されています。

旬は産卵前の春から初夏とされますが、通年を通じて味の変化が少なく、年間を通して楽しめる貝です。

サザエを見たら「とげ」にも注目してみよう

「とげあり=荒海」「とげなし=内海」というのは、おおむね間違っていない話です。

ただ実際には、波の強さだけでとげの有無が決まるわけではなく、遺伝的な背景も絡んでいることがわかってきました。

研究者たちもまだ答えを探している途中です。

瀬戸内のつるつるしたサザエも、日本海のごつごつしたサザエも、もとをたどれば同じ一種の巻貝。それぞれが長い時間をかけて、住み着いた海に合わせて殻を育ててきました。

次に鮮魚コーナーでサザエを見かけたら、その殻の形からどんな海で過ごしてきたのかを想像してみると、いつもとは少し違う楽しみ方ができるかもしれません。

サカナトライター:原田大樹

参考文献

柳本卓ほか(2022)「サザエ Turbo sazae 地域集団間の遺伝的及び形態的分化」日本水産学会誌 Vol.88, No.5, pp.396-406、

驚愕の新種!その名は『サザエ』-岡山大学

丹後の海の生き物サザエー京都府水産事務所

サザエのツノ・トゲ 長いサザエと短いサザエー大日本水産会 魚食普及水産センター

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