チョウチョウウオ科の魚は飼育が難しい
関東の磯で採集したチョウチョウウオ科の魚をお持ち帰りし、水槽に入れたくなりますが、初心者にはチョウチョウウオ科の魚の飼育はおすすめしません。チョウチョウウオ科の魚は飼育がかなり難しいのです。
餌をなかなか口にしない
チョウチョウウオ科の魚はいきなり配合飼料を与えても見向きもしないことが多いです。餌付けは原則としてまず殻付きのアサリからはじめ、その後アサリのミンチと配合飼料を混ぜ合わせたもの、最終的に配合飼料という感じで慣らしていくことになります。しかし、殻付きのアサリはよく食べてくれるのですが、どうしてもその次の段階でつまづいてしまうアクアリストが多いように思います。
また、関東地方の磯で出会える、500円玉に口と尾鰭がついているようなサイズは餌を食べていても痩せてくることがあるので大変です。
病気になりやすい
チョウチョウウオ科の魚は幼魚・成魚ともに病気になりやすいデリケートな魚です。体表に白や黄色い点がつく白点病やウーディニウム病、鰓に寄生するエラ病、鰭や体表につくリンホシスチスなど、さまざまな病気にかかりやすいため、チョウチョウウオを上手く飼育するのには、病気対策および治療についての知識が求められます。
しかしながら海水魚飼育初心者がチョウチョウウオの病気に対応することは難しく、結局初心者には飼育が難しい魚ということになります。
白点病は温度変化が激しかったり、病気の魚を迎えたりしたとき、底砂を舞いあげたりしたときや、長いこと水かえをしていない水槽で発生することがあります。綺麗な海水で飼育し、夏はクーラー、冬はヒーターで温度を一定にするように心がけましょう。
なお、白点病対策にはホンソメワケベラやアカシマシラヒゲエビなどのような「寄生虫を食べる魚・エビ」を投入しても効果がないので注意が必要です。
混泳が難しい
チョウチョウウオ科の魚は日本に50種以上が分布していますが、種ごとに性格が大きく異なります。例えば気が強いチョウチョウウオ科魚類と、臆病なチョウチョウウオ科魚類を家庭の水槽で飼育すると、後者が短命に終わりやすいです。
またサンゴのポリプを食するようなチョウチョウウオ科魚類では、縄張りを持ち他のポリプ食性チョウチョウウオ科魚類に対する攻撃性が強いです。
関東でも毎年姿を現す普通種である、種標準和名チョウチョウウオの幼魚はとくに臆病な性格をしており、ほかのチョウチョウウオとの飼育が難しいように思います
一方大きい個体はどの種も結構気が強く、大型ヤッコ(キンチャクダイ科の魚)との混泳さえできるような種もいます。
サンゴとは飼えない
近年はサンゴを中心としたマリンアクアリウムが主流といえるほど流行していますが、チョウチョウウオ科の魚のほとんどの種は大なり小なりサンゴをつつき、ポリプを食べてしまいますので、サンゴ水槽では飼育困難といえます。
またチョウチョウウオ科の魚は病気にかかりやすく、病気の治療のために薬を投入できる飼育環境が必要ですが、サンゴというのはチョウチョウウオの病気の治療薬に大変弱いため、サンゴ水槽で飼育することは無理があります。
以上の点からチョウチョウウオの飼育は初心者向けでないどころか、ベテランでも難しいような種類が多く、残念ながらぽっと磯に出て採集した方がチョウチョウウオを持ち帰って上手く飼育できる確率は極めて低いといえます。
もしチョウチョウウオを採集して飼育したいのであれば、他の海水魚の飼育を通して飼育方法を学び、しっかりとした水槽システムを準備してから飼育するようにしましょう。
(サカナトライター:椎名まさと)
参考文献
青木 猛(2011)、長期飼育への道!コーラルフィッシュ Vol.33.、株式会社枻出版社
根来晃佑・宗原弘幸(2024)記録的猛暑の 2023 年に北海道函館市臼尻からSCUBA潜水によって採集された北限記録 13 種を含む初記録 14 種の魚類、Ichthy, Natural History of Fishes of Japan