ハゼの仲間の一部の種と、テッポウエビの仲間のニシキテッポウエビやコトブキテッポウエビは共生関係にあります。眼が弱いテッポウエビの仲間は巣孔を堀り、ハゼに隠れ家を提供し、一方でハゼはテッポウエビの仲間と隠れ家を見張ります。
この共生関係はダイバーにはお馴染みのものですが、水槽で再現することも可能です。今回は、共生ハゼの仲間とテッポウエビの仲間の共生を水槽内で観察する方法・コツなどをご紹介します。
なお、ここでは海水魚の飼育について扱っています。海水魚は真水(淡水)で飼育することはできません。
また海水魚飼育の設備は淡水魚とは異なるものが必要になります。詳しくは専門誌などをご参照ください。また一度飼育した魚は、海や川へ逃がすようなことのないようお願いいたします。
共生ハゼとテッポウエビの仲間の共生
ダテハゼなどのハゼ(通称「共生ハゼ」と呼ばれる)とテッポウエビの仲間は共生関係にある生物です。サンゴ礁域の海でテッポウエビの仲間と共生ハゼはひとつの巣の孔の中で暮らしています。
テッポウエビの仲間は視力が弱く、その視力を補うために共生ハゼが巣孔の入り口で見張りをします。危険が迫ると共生ハゼはテッポウエビの仲間にサインをおくり、素早く孔中に潜るのです。
テッポウエビの仲間と共生するハゼはインド~太平洋の熱帯域、西大西洋(1種のみ)、地中海東部(紅海からスエズ運河経由の進入)に生息しています。
水槽内で共生を楽しみたい!
共生ハゼと、共生するテッポウエビの仲間は海水魚専門店でよく販売されており、たまにセットで販売されていることもあります。
共生ハゼも、ハゼと共生するテッポウエビの仲間についても飼育は容易です。底砂はパウダーサンドと、それよりも若干荒いサンゴ砂を敷くとよいでしょう。
種類が多く一概には言えないのですが、混泳は温和な魚だけに留めるのが無難です。カクレクマノミとの混泳でハチマキダテハゼがやられてしまい、鰭がぼろぼろになってしまったことがあります。
そして意外にも、飛び出して死んでしまうというケースが多い魚であるため、フタも確実にします。それ以外の海水魚飼育の基礎的なことについては、専門書などをご参照ください。
水槽でこの共生を楽しむうえでの最大の注意点として、立ち上がって長い年月が経った水槽に共生ハゼとテッポウエビの仲間を入れるのはやめたほうがよいでしょう。
テッポウエビは砂を掘って巣穴をつくりますが、長い年月が経った水槽では砂の中に汚れがたまっていることが多く、テッポウエビが巣穴を掘ることにより汚れが舞い上がって魚が死んでしまったり病気になったりすることがあります。
水槽で共生ハゼとテッポウエビの仲間の共生を楽しむならば、新しく水槽を立ち上げるのがよいかもしれません。
なお、すべてのハゼ科の魚がテッポウエビと共生するわけではなく、それと同様にすべてのテッポウエビの仲間のエビがハゼと共生しないという点は注意が必要です。
共生ハゼとテッポウエビの仲間の主な組み合わせ
次に、共生ハゼとテッポウエビの仲間を一緒に飼育する際の組み合わせについて紹介します。見た目はもちろん、飼いやすさや入手しやすさも種によって違いますのでぜひ参考にしてみてください。
ヒレナガネジリンボウとコトブキテッポウエビ
ヒレナガネジリンボウは繊細な小型種で、共生するテッポウエビの仲間もニシキテッポウエビよりもコトブキテッポウエビのような小型種が適しています。両種ともインドネシアなどから頻繁に入荷するポピュラー種であり、入手も飼育も容易です。
他種については温和な種で他の共生ハゼとの混泳には気をつけるべきです。可愛いので小型水槽でも複数個体を水槽に入れたくなりますが、同種同士意外と争うので小型水槽では1匹またはひとペアがよいでしょう。ただし雌雄の識別は難しいところがあります。
クビアカハゼとコトブキテッポウエビ
クビアカハゼは自然下ではコシジロテッポウエビなどと共生していることが多いですが、そのコシジロテッポウエビはなかなか販売されていないので、別のテッポウエビの仲間と共生させてもよいでしょう。
ニシキテッポウエビでもよいのですが、比較的小型の本種はコトブキテッポウエビとも共生を楽しむことができます。クビアカハゼもコトブキテッポウエビも紅白の縞模様で、ペアルックのようです。クビアカハゼはある程度の大きさの水槽であれば複数飼育も可能です。
ハチマキダテハゼとニシキテッポウエビ
ダテハゼ属の共生相手にニシキテッポウエビというのはオーソドックスなスタイルといえます。
ハチマキダテハゼをはじめとするダテハゼ属はフィリピンやインドネシアから色々な種が来ますが、種類が多く同定も簡単ではないため、しっかり同定されているとは言い難いです。
そのため流通名は実際の種と異なる場合もあります。
ニシキテッポウエビは共生ハゼの種類をあまり選ばず、多くのハゼと共生してくれるので、ハゼとの共生相手に迷ったらニシキテッポウエビの小ぶりのものを入れてもよいかもしれません。
なお、ダテハゼ属のうちヤノダテハゼとオーロラゴビーの2種はコトブキテッポウエビとの共生を好みます。
ヒメオニハゼとコトブキテッポウエビ
オニハゼ属は地味な色彩のハゼですが、近年はある程度流通が見られるようになりました。ヒメオニハゼはオニハゼ属中でも小型のもので高知県からインドネシアにまで分布しています。
小型種であるためコトブキテッポウエビと共生することが知られています。同じオニハゼ属のホタテツノハゼや「オニハゼ属の一種」と称される小型種も同様。
一方大型になるオニハゼはより大型のテッポウエビの仲間との共生を好みます。
ギンガハゼとニシキテッポウエビ
ギンガハゼはイトヒキハゼ属のハゼです。体が黄色いものと灰色っぽいものがおり、黄色いものは従来は「こがねはぜ」という名前で呼ばれていましたが、これは現在はギンガハゼと同種であることが分かっています。頭部にある青白い斑点が特徴的で、これがギンガハゼの標準和名の由来となっています。
共生するテッポウエビの仲間については比較的大型に育つニシキテッポウエビなどが向いています。
本種のように比較的大きくなるハゼにはオイランハゼやニチリンダテハゼなどがいますが、大きくなる種は性格がきついものが多いため、水槽内でほかのハゼの仲間(を含む温和な小魚)と一緒に飼育するのは難しいです。
ハナハゼの仲間とテッポウエビの共生を楽しむ
クロユリハゼ科・クロユリハゼ属のうちハナハゼの仲間(ハナハゼ、スミゾメハナハゼ、リュウキュウハナハゼなど)は普段は海底の少し上のほうをゆったりと泳いでいるのですが、危険が迫ると共生ハゼとテッポウエビの仲間が共生している巣孔に隠れるという習性があります。
それがまるでハゼとテッポウエビの仲間の住まいに居候しているように見えて面白いものです。
ハナハゼの仲間は全長10センチを超えるものもいるので、できれば60センチ以上の水槽で楽しみたいものです。ハゼとテッポウエビの仲間の共生の中にハナハゼが居候している様子を観察するなら、ハゼはダテハゼ属の種(ニチリンダテハゼは性格きつめなので注意)、エビはニシキテッポウエビなど比較的大きくなり、巣穴をしっかり掘るタイプのものが適しているでしょう。
なおハナハゼは非常に臆病な魚です。ハナハゼの仲間を飼育するならほかの魚はあまり入れないようにします。
複数種の共生ハゼの飼育
このパターンはペア以外の複数種の飼育です。私はかつて、ひとつの水槽で複数の共生ハゼを飼育していたことがあります。上の写真では左から順にヒメオニハゼ、スミゾメハナハゼ、コバンハゼ属の一種、そしてクビアカハゼを飼育していますが、このうちヒメオニハゼとクビアカハゼが共生ハゼの仲間です。
複数種の共生ハゼを飼育するのであればできるだけ同じくらいの大きさのものを選ぶのがよいでしょう。また、種については混泳は避けたほうがいいものもあり、とくにイトヒキハゼ属の種(ギンガハゼ、オイランハゼなど)は性格がきつく弱い共生ハゼをいじめたりすることがあり、最悪の場合は捕食してしまうこともあります。
温和なものが多いとされるダテハゼ属も、ニチリンダテハゼなどはかなり気性が激しいので注意しなければなりません。いじめられたら早いうちに別水槽に退避させられる環境を整える必要があり、初心者には難しいかもしれません。
サンゴ水槽での飼育
共生ハゼとテッポウエビの仲間による共生はサンゴ水槽での再現ももちろん可能です。ただしテッポウエビの仲間は種類によっては地形が大きく変わるほど大きな巣を作るので、砂が舞うこともありサンゴなどが砂をかぶったり、最悪の場合岩組が崩れてしまうおそれもあります。
サンゴはできるだけ大きなサンゴ岩やライブロックに接着し、若干崩れても大丈夫なようにしたいものです。またサンゴは砂の上に直接おかず、必ずサンゴ岩やライブロックに接着するようにします。
これは砂を被って死んでしまう恐れがあるのはもちろん、砂の上にサンゴを直接置くとその下に硫化水素が発生し、サンゴが死んでしまうということもあるからです。
水槽での共生を楽しもう
共生ハゼの仲間とテッポウエビの仲間の飼育は水槽内でも容易に楽しむことができます。
もし水槽でもこれらの生物の共生を観察したいと思ったら、アクアリウムショップなどでお店の人に相談したり、書籍を購入するなどして飼育の準備をしっかりと行ってから飼育を楽しむようにしましょう。
(サカナトライター:椎名まさと)