大熱狂のうちに幕を閉じたパリ五輪。
個人的に印象に残っているのは、厳しい戦いを強いられつつも最後まで諦めずに泳ぎきった競泳日本代表です。なかでも女子400メートルメドレーリレーでは表彰台こそ逃したものの、5位入賞という素晴らしい結果を残しました。
そんな彼女たちの様子をテレビ中継で見ながら、ふとある考えが頭に浮かびました。
「もし、泳ぎのプロである海の生きものがオリンピックで競泳に参加したとしたら……一体どんなチームになるのだろう?」
ということでこの記事では、筆者が妄想する最強の日本代表競泳リレーチームを、サカナたちで置き換えて考えていこうと思います。
皆さんならどうするか考えながら読んでみてくださいね。
400メートルメドレーリレーをサカナでつなぐ
選抜するのは、水泳の4泳法を4人の選手がそれぞれ泳いでリレーでつなぐ「400メートルメドレーリレー」のメンバー。泳ぎの速さだけではなく、持久力や瞬発力、チームワークなどが求められる、オリンピックでも非常に盛り上がる種目です。
国内に生息している海の生きものであることや、同じ科目の生きものは同じ泳法として捉えるなどの条件のもと、ゴリゴリの独断と偏見でつくりあげたドリームチーム。まずはその第一泳者を紹介します。
第一泳者:背泳ぎのプロ、ラッコ
背泳ぎでラッコの右に出るものはいないでしょう。
体毛密度が高く、全身を毛繕いすることができるように発達した非常に柔軟な体は、しなやかで安定した泳ぎを披露してくれること間違いなし。
泳ぐ速さにはあまり自信がないようですが、弱点を他の選手でカバーできるのがチーム種目の醍醐味です。
その分、序盤はその愛くるしい姿でファンを形成してもらい、会場の雰囲気を一気に日本応援モードへと移行してもらいます。
第二泳者:平泳ぎ 日本沿岸を泳ぐマサバ
力強い下半身の動きが特徴の平泳ぎ。
今回はその泳ぎの速さと群れで暮らす協調性を兼ね備えた、マサバを第二泳者とします。
マサバは大きな群れを作る回遊魚。体の側面にある「側線」と呼ばれる感覚器官の働きにより、仲間同士で一定の距離を保ちながら、ぶつかることなく急発進・急転回をすることができます。
この見事なチームワークで培った経験は、今回の代表選抜においてもチームの雰囲気を支える役として、存分に発揮されるでしょう。
ただし、サバは鮮度が落ちやすい魚。本来の力を出すため、大会にピークをしっかり合わせられるかどうかの課題は残ります。
同じスズキ目サバ科にはマグロもいますが彼らは外洋を泳ぐ魚。日本沿岸を泳ぐサバの方が「日本代表」にふさわしいと考え、第二泳者にはマサバをセレクトしました。
第三泳者 :バタフライ 飛ぶ魚トビウオ
その名の通り、まるでチョウが空を飛ぶような動きで泳ぐバタフライ。
海の世界のバタフライ泳者といえば、トビウオです。
彼らが水面から飛びだすのは、自分をエサとして狙っている大型魚に追いかけられた時。実は第二泳者のマサバもトビウオを捕食する大型魚なのです。
彼からバトンを受け取ったトビウオは、同時に捕食者からのプレッシャーも受ける形になるため、パフォーマンスを最大限出し切ることができると考えました。
また、滑空が注目されがちですが、実は泳ぎにおいても時速35キロというマサバよりも速いスピードで泳ぐことができるトビウオ。
総じて非常に安定感のある魚で、今大会では日本代表のリーダー的存在として活躍してくれることでしょう。
第四泳者:自由形 加速が得意なバショウカジキ
最後は、4つの泳法の中で最も速い自由形。
選ぶのはやはり、水中の最速記録保持者であるバショウカジキです。
大きな背びれに細長い腹びれ、するどくとがった上あごといった、他の魚にはない特徴で会場の視線を集めていきます。
瞬間的な加速は得意な分、課題である持久力はトビウオとの共同練習で克服していってほしいですね。とはいえ、バショウカジキの後半はズルズルと失速し後続に迫られることが予想されます。
しかし、ここまでの試合展開ですでに会場は日本応援モード、さらに本人のカリスマ性に応えるべく、観客の応援も最高潮なはず……! なんとか気合いで逃げ切って欲しいなと思います。
しかし近年、バショウカジキの最高速度(時速100キロ以上!)の信憑性については疑問視する声もあります。
海洋生物学者である渡辺佑基さんの記事では、「実際にバショウカジキの遊泳スピードを海で計測した科学論文を調べてみたところ、平均スピードは時速2キロと知った(特別編 渡辺佑基「マグロは時速100キロで泳がない」-NATIONAL GEOGRAPHIC)」との記述もあります。
しかし、ここは夢を持ってバショウカジキにアンカーを走ってもらいたいです!
サカナたちを違った視点から観察するきっかけに
海の生きものによる競泳チーム、いかがでしたでしょうか?
普段私たちが当たり前のように見かけている海の生きものたちも、いつもと違った視点から捉え直すことで、さらに親しみと驚きを持ってその多様な特徴を知ることができます。
皆さんの考えた最強の「マイスタメン」もぜひ教えてくださいね。
(サカナトライター:クボデラリョウスケ)
参考文献
成美堂出版編集部(2021)、さかなずかん、成美堂出版
さかなクン(2022)、さかなクンのギョギョッとサカナ★スター図鑑、講談社MOOK
早武 忠利、藤原 勝子(2021)、魚の教え 下巻 食べて生きる -科学で考える食育絵本-、群羊社