2024年8月にアカエイ科のヤッコエイが新種記載されました。ヤッコエイは従来から、伊豆諸島や小笠原諸島のぶっこみ釣りなどでたまに釣れる、磯釣り師にはお馴染みの魚ともいえます。
従来、ヤッコエイはNeotrygon Kuhliiと同定されたり、あるいはNeotrygon orientalisとされてきたのですが、これらの学名の種は日本のヤッコエイとは異なるとされ、日本にはこれらの種は分布していないことも判明しました。
今回はこの新種のエイ、ヤッコエイについてご紹介します。
ヤッコエイとは
ヤッコエイNeotrygon yakkoei Hata and Motomura, 2024 はエイ目アカエイ科ヤッコエイ属の軟骨魚類です。
体盤幅は50センチほど、吻端から尾後端までの全長も70センチくらい。
アカエイと比べたら小型種ですが、体側に小さな青い斑点が散らばり、両眼間隔にはあまり明瞭でないものの暗色マスク様の模様があることなどから日本産のほかのアカエイ科魚類と見分けることは難しくはありません。
難解なアカエイ科魚類
アカエイ科魚類を含む板鰓類の多くは分類が難航しています。
一般的な魚類である硬骨魚綱の魚であれば鰭条数や鱗の数、鰓耙数などにより同定することができます。しかしサメやエイの仲間はそれができず、サメ類であれば多くは歯の形状や鰭の大きさなどにより同定しますが、エイの仲間は概ね体盤の形状や斑紋・色彩、鰭の大きさ、尾部腹正中線の皮褶の高さやその色彩、小瘤状物の有無などで見分けることが多いです。
しかしながら成長に伴う変異なども多く、同定が難しいことも多いようです。
分子分類学的な手法が成果
一方、ここ20年ほどは分子分類学的な手法も取り入れられるようになり、それらが大きな成果をあげています。
従来、日本産のアカエイ科魚類は多くがDasyatis属に含められてきましたが、近年はこの属は大西洋にのみ分布するとされ、アカエイなどはHemitrygon属に移されています。
ほかにも数多くのアカエイ科の新たな属が作られたり、復活したりしています。
ヤッコエイも従来のDasyatis属からNeotrygon属に移動されましたが、このNeotrygon属は新属ではなく、1873年にフランスのカステルノーによりRaya trigonoidesをタイプ種とした属で、2008年に復活したものです。
ヤッコエイの新種記載
ヤッコエイは長らくDasyatis kuhlii(=Neotrygon kuhlii、ソロモン諸島~中央太平洋産)と同定されたり、フィリピンやインドネシアなどに分布するNeotrygon orientalisと同種とされてきました。
しかしながらヤッコエイは体色が青緑色であること(N.orientalisは黄色っぽい)、眼の間にあるマスク状の模様は不明瞭(N.orientalisでは明瞭)、腹鰭に斑点がない(N.orientalisにはある)、斑紋がやや小さい(N.orientalisではやや大きい)、体側の淡色斑は暗褐色で縁どられる(N.orientalisではやや濃い青色の縁をもつ)などの特徴を有することなどの特徴を有しています。ただし、見分けるのは慣れないと難しいと思います。
ヤッコエイの斑点は西へ行くほど増える
面白いことに、このヤッコエイの斑点は西へ行くほど増えていくとされています。
沖縄諸島や八重山諸島の個体には平均して42.4個の斑点があるのに対し、八丈島など伊豆諸島や小笠原諸島の個体では平均して5.6個の斑点となっています。
沖縄諸島のものや八重山諸島のものは斑紋からNeotrygon orientalisにも似ていますが、石垣島産の個体のCOI遺伝子配列に基づく最大尤度ツリーは、伊豆諸島や小笠原諸島産のヤッコエイと同じグループであることを示唆しています。
上記の形態学的特徴や、COIミトコンドリア遺伝子による分子系統解析いずれにおいても(遺伝子データが不足したNeotrygon valiを除く)本種以外のヤッコエイ属のいずれの種と異なることが裏付けられています。
なお、ヤッコエイの学名は本種の標準和名に因みます。この新種は日本国内でのみ見られ、北海道日本海・太平洋沿岸、若狭湾、相模湾以南の太平洋岸、琉球列島、伊豆諸島、小笠原諸島から記録されています。
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