日本には本来生息していなかった生物(外来種)が生息しており、意図的に持ち込まれた生物も少なくありません。
ヨーロッパヒラガキはかつて、日本へ移入された後、養殖までされたものの諸々の事情により日本から姿を消した二枚貝です。
しかし2023年、岩手県山田湾でカキ養殖をしている漁業者から本種と思われる貝を譲り受けた岩手県水産技術センターの研究員はサンプルを解析。その結果、一度は姿を消したと考えられていたヨーロッパヒラガキだということが判明したのです。
ヨーロッパヒラガキとは
ヨーロッパヒラガキはカキ目イタボガキ科の二枚貝で、ノルウェーからモロッコの北大西洋東岸、地中海の潮間帯から水深80メートルに生息しています。
別名「フランスガキ」と呼ばれている他、フランスでは「ブロン(Belon)」とも呼ばれているとか。
ヨーロッパヒラガキは味が良いため、古くからヨーロッパで食用とされており、既に17世紀から養殖が始まったといいます。しかし、1920年には個体数が激減、一部の海域では消滅したとも言われました。
その後、種苗の導入などにより一時、個体数は回復したものの原虫症ににより生産量は低下。現在に至るまでヨーロッパヒラガキの生産量は低迷しています。
日本への移入と消失
ヨーロッパヒラガキは養殖の目的でアメリカやオーストラリア、日本へ人為的に移入されました。
日本には1952年にオランダから持ち込まれ、北海道や青森県、岩手県、宮城県で種苗生産、養殖を実施。しかし、養殖が上手くいかなかったことや、国内で市場価値がなかったことから、多くの地域では2000年代初め頃までに試験が終了してしまいました。
その後、宮城県女川町の大学研究施設で僅かに飼育されいたものの、2011年に発生した津波により流失。日本国内から姿を消したと考えらえていました。
再発見の経緯はSNS?
長らく姿を消したと思われていたヨーロッパヒラガキ。再発見の経緯はSNSだったといいます。
岩手県水産技術センターの研究員が岩手県の漁業者がSNSにアップした写真からヨーロッパヒラガキと思われる個体を発見。現地で得たサンプルの調査を行った結果、貝はヨーロッパヒラガキ(Ostrea edulis)に同定されました。
山田湾の他、複数の天然海域に定着していることが明らかになり、アンケート調査では2002~2004年、岩手県山田湾で採取された個体が天然海域で最も古く確認されたものだということも判明。また、漁業者はヨーロッパヒラガキを自家消費していたのです。
ヨーロッパヒラガキは今のところ生態系に影響はないと考えらえていますが、分布域の拡大には注視する必要があるといいます。
一方、ヨーロッパヒラガキは独特な渋みがあるものの味が良いことに加え、高い水温下でも生存できる二枚貝です。近年、水温上昇によりホタテなどの生産量が低迷していることから、ヨーロッパヒラガキが漁業者の新たな収入原になることも期待されています。
(サカナト編集部)
参考
(東北太平洋沿岸におけるヨーロッパヒラガキ(軟体動物門: 二枚貝綱:イタボガキ科)の移入と定着状況について)
(絶滅危惧種イタボガキ(軟体動物門:二枚貝綱:イタボガキ科)の大阪湾での採集記録)
(「まさか生き残っていたとは」きっかけは漁師がSNSに投稿した写真 研究員が衝撃を受けた「いるはずのない貝」-IBC 岩手放送)
(津波で「消滅」ヨーロッパヒラガキ、貝に夢中の研究員らがSNSきっかけに特定…「岩手の新たな特産品に」-読売新聞オンライン)