田んぼや小川で見かける身近なドジョウ。その遺伝子に、海外由来の系統が入り込んでいることがわかりました。
兵庫県立大学大学院・環境人間学研究科共生博物部門の木村亮太氏と高橋鉄美氏の研究チームは、兵庫県・武庫川水系にすむドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)の遺伝子を調べたところ、外来系統の遺伝子が約1割含まれていることを明らかにしました。
一方で、魚の核DNAの一部で、在来系統か外来系統か、さらに近縁種かを識別できる目印として使われている「rag1遺伝子」に限れば、在来型が多数を占めており、在来系統が優勢であることが示されたといいます。
本研究は、「人と自然 Humans and Nature」に掲載されています(論文タイトル:兵庫県武庫川水系のドジョウにおける外来rag1アリルの検出)。
各地で問題となる「遺伝的撹乱」とは?
ドジョウは、水田や小川などにすむ淡水魚で、日本では食文化や祭礼とも深く関わってきた身近な魚です。東アジアを中心に広く分布しています。
東アジアにすむドジョウは同じ種とされていますが、離れた地にすむドジョウたちは遺伝的に異なっています。日本にすむドジョウを在来系統、国外にすむドジョウを外来系統と呼ぶこともあります。
ドジョウ(提供:PhotoAC)しかし近年、中国などにすむ外来系統のドジョウやカラドジョウ、キタドジョウといった近縁種が全国で放流され、在来の遺伝的な特徴がかきまぜられてしまう“遺伝的撹乱”が問題になっています。
中国由来と考えられる外来系統は10.9%
研究チームは2024年、兵庫県南東部を流れる河川武庫川水系の2地点で合計64個体のドジョウ類を採集し、魚の遺伝系統を識別できる目印である「rag1遺伝子」の配列を詳しく調べました。
その結果、多くは日本在来系統だけのタイプでしたが、一部で「在来×外来の雑種(ヘテロ個体)」、さらに少数ですが「外来系統だけのタイプ」も見つかったといいます。
2地点をまとめて解析すると、中国由来と考えられる外来系統の頻度は10.9%で、キタドジョウやカラドジョウの遺伝子は検出されませんでした。
在来型と外来型の遺伝子の組み合わせは、自由に交配が進んだ場合に想定される比率とは一致しておらず、交雑が十分に進んでいない可能性や、外来系統の侵入が比較的最近である可能性が示唆されました。
本研究はrag1という単一の遺伝子座を用いた解析であり、今後は複数の遺伝マーカーによる検討も重要とされています。
「安易な放流」に注意
今回調査された武庫川の集団では、外来遺伝子は一部にとどまり、多くは在来系統の遺伝子を保っていますが、より外来の影響が少ない「より純粋な在来集団」が同じ水系内に存在する可能性も指摘されています。
飼育下のドジョウ(提供:PhotoAC)ドジョウは、鳥類の餌確保や釣り餌、ペット用、食用などを目的に、採集地とは別の場所へ意図的・偶発的に放流されてきた歴史があり、その結果として在来集団の遺伝的な特徴が変化し、地域ごとの生態系に影響が及ぶ可能性があります。
研究チームは、「在来の個体群に遺伝的撹乱をもたらすなど、その場で培われてきた生態系の歴史の痕跡を永久かつ不可逆的に改変する可能性がある」と指摘した上で、ドジョウに限らずあらゆる生き物で遺伝的背景や生態系への影響を考慮しない放流を控えるよう、改めて注意喚起が必要だと訴えています。
(サカナト編集部)