「褐虫藻(かっちゅうそう)」は、サンゴやクラゲ、イソギンチャクなどさまざまな生きものと共生する植物プランクトンの一種です。あまり知られていない存在ですが、実は身近な潮だまりでも見られます。
【画像】体内に褐虫藻を共生させることが知られているタコクラゲ
生きものたちを陰で支える褐虫藻の世界をのぞいてみると、その奥深さに驚かされるはずです。
さまざまな生きものに共生する<褐虫藻>
褐虫藻は、単細胞性の植物プランクトン。褐色の色素を有し、光合成を行なう生きものです。
「渦鞭毛藻(うずべんもうそう)」というプランクトンの中で、他の生きものに共生するものを総称して褐虫藻(主にSymbiodinium属の渦鞭毛藻)と呼んでいます。
渦鞭毛藻(提供:PhotoAC)褐虫藻は水中で単独生活をする場合は2本の鞭毛(べんもう)を出して泳ぎますが、共生した場合は鞭毛を消失させるのが特徴。ただ、また単独生活になるときには鞭毛ができ、遊泳生活ができるようになります。
生活に合わせて形態変化をする姿は、まるでTPOに合わせて服を着替えるようでどこか親近感を覚えます。
褐虫藻が共生する生きもの
褐虫藻は刺胞動物や軟体動物、無脊椎動物など様々な生きものと共生します。よく知られているのは、サンゴやイソギンチャク、クラゲ、シャコガイなどです。
特に褐虫藻との共生関係が強いのは、サンゴの仲間です。

褐虫藻が共生するミドリイシ(提供:PhotoAC)
サンゴは生まれたあとプラヌラ幼生となって海を漂うのですが、その際に共生する褐虫藻を取り込みます。海底に着床したサンゴは少しずつ成長しますが、この褐虫藻の光合成産物である栄養成分がサンゴの成長に不可欠なのです。
褐虫藻と一緒に生きているミドリイシ(学名:Acropora solitaryensis)などの造礁サンゴは褐色を帯びているものが多いのが特徴といえるでしょう。
共生関係の断絶がサンゴの白化につながる?
しかし、褐虫藻はサンゴよりも水温上昇に敏感であり、高水温が続くと死んでしまいます。褐虫藻の光合成生産物が得られなくなったサンゴは白化して弱り、ついには死滅を迎えてしまいます。
この共生関係の断絶がサンゴの白化とサンゴ礁の消失につながる要因のひとつでもあります。
白化が見られるサンゴ(提供:PhotoAC)ただ、サンゴは海水温の上昇を感知した場合、より高温に耐性のある褐虫藻と共生するためにすでに共生している褐虫藻を放出(共生関係の破棄)する習性があります。
そのため、褐虫藻の死滅ががすぐにサンゴの死滅につながる訳ではありません。
なぜ褐虫藻は他の生きものと共生するのか?
褐虫藻が他の生きものと共生する理由は、生存戦略の一つです。
単細胞生物である褐虫藻は、動物プランクトンや小さな無脊椎動物などのエサになる、紫外線に弱い、少しの水温や栄養濃度などの環境変化で死滅しやすいなどの弱点があります。
褐虫藻のイメージ(作画:額田善之)そこで、サンゴやクラゲ、イソギンチャク、シャコガイ、ハートガイなどの体内に共生し、環境の影響を受けにくくする戦略を選んだのです。
特に、紫外線の影響を受けにくくなることは生きものには重要です。ヒトでは紫外線はシミや皮膚がんの原因になるように、紫外線の影響はとても大きいといえます。
宿主と構築する共生関係
また、他の生きものと共生することで、光合成に必要な二酸化炭素やミネラルなどの栄養素の安定供給を受けられるため、生存率を上げるにはとてもよい選択と言えるでしょう。
共生される生きものを宿主(しゅくしゅ)といいますが、宿主には褐虫藻が光合成したブドウ糖やグリセロール、褐虫藻の細胞壁の分解物などが供給されるため、サンゴや貝殻の成長に大きく寄与します。
このように褐虫藻は長い年月をかけて宿主ととてもよい共生関係を構築してきたのです。他者とのwin-winの関係性を築くことは、どんな社会でも大切なことですね。
褐虫藻が共生する生きものを観察してみよう!
褐虫藻と共生する生きものは暖かい海に多く生息します。そのため、海で見るなら関東以南の海やサンゴ礁をおすすめします。
例えば、ヒメイソギンチャク(学名:Anthopleura asiatica)は中部以西の磯の潮間帯で見られますし、ヨロイイソギンチャク(学名:Anthopleura japonica)であれば北海道から九州までの磯の潮間帯で見つかるでしょう。
潮間帯のヨロイイソギンチャク(提供:PhotoAC)触手や体の色が褐色であるイソギンチャクは褐虫藻と共生している可能性が高いです。
気軽に見るなら、水族館でタコクラゲ(学名:Mastigias papua)やサカサクラゲ(学名:Cassiopea ornata)、シャコガイの仲間、イソギンチャクの仲間などの生体展示を探しましょう。
最近ではサカサクラゲは多くの水族館で展示されているので、見るチャンスは多いと思います。
サカサクラゲ(提供:PhotoAC)褐虫藻とサカサクラゲの関係もサンゴの共生と同じく、サカサクラゲが排出した二酸化炭素を使って光合成をおこない、光合成でできた栄養をサカサクラゲに渡しています。
水族館や海辺に行って上記のような生きものを見つけたら、ぜひよく観察してみてください。
(サカナトライター:額田善之)
参考資料
石井 悠(2022)「褐虫藻は共生していることをどう感じているのか」『植物科学最前線』13巻、3-12
將口栄一(2018).多様な宿主を持つ渦鞭毛藻 Symbiodinium の分子生物学.藻類,66(3),169–172.
Ishii Y, Ishii H, Kuroha T, Yokoyama R, Deguchi R, Nishitani K, Minagawa J, Kawata M, Takahashi S, Maruyama S(2023)Environmental pH signals the release of monosaccharides from cell wall in coral symbiotic alga. eLife, 12:e80628.
Yoshioka Y, Chiu YL, Uchida T, Yamashita H, Suzuki G, Shinzato C(2023)Genes possibly related to symbiosis in early life stages of Acropora tenuis inoculated with Symbiodinium microadriaticum. Communications Biology, 6, 1027.