「海洋プラスチック」は絡まりや誤食により海洋生態系に影響を与えています。
プラスチックは海面に多く残る場合があり、直接的な影響だけでなく、生物を遠くまで運搬する「いかだ」としても機能することもあるようです。実際にこれまで、フジツボやコケムシといった付着生物がプラスチックから発見されています。
一方、日常的なプラスチック1個に着目し、そこで暮らす生物群集や成長中に経験した環境などを読み解いた例は多くありませんでした。
そうした中、名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の自見直人講師らの研究グループは、高知沖から得られたプラスチックボトルキャップに小さな生態系が形成されていることを確認。これが、どのように成立し漂流したのか研究を行いました。
「いかだ」としての海洋プラスチック
海洋プラスチックは誤食や絡まりなどを引き起こし海洋生態系に影響を与える一方、プラスチックという性質上、海上に長く漂うこともあり、付着生物を運搬する「いかだ」としての機能も指摘されてきました。
実際にこれまで、フジツボやコケムシなどがプラスチックに付着する生物として発見されています。ただし、小型プラスチックの1つに着目し、その生物群集や成長中に経験した環境、漂流経路を読み解いた例は多くありませんでした。
直径3.5センチの海洋生態系 307個体の生物を確認
こうした中で、名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の自見直人講師らの研究グループは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の「かいめい」による調査航海で曳航したネットからペットボトルキャップを回収しました。
海のペットボトル(提供:PhotoAC)このペットボトルキャップは高知沖から得られたもので、フィリピンの飲料会社のラベルが残っていたとのこと。さらに、この直径3.5センチのペットボトルキャップには生態系が形成されていたのです。
ペットボトルキャップの生態系から確認された生物は、石灰質の管を作るゴカイ類、コケムシ、エボシガイ、有孔虫、扁形動物、そのほか複数のゴカイ類など、9分類群307個体。307個体のうち約4分の3は小型の管棲ゴカイ類だったといいます。
一方、確認された生物には、海底や岩礁に生息する底生生物も含まれていました。
ゴカイの巣が城になった
ペットボトルキャップの生態系の中で最も目立っていたのは、日本から記録のないイソメ科の1種 Eunice bipapillata が作った巣。この巣はキャップ内の多くを覆い、平面的なキャップに隙間や通路といった複雑な三次元空間を作り出していたようです。
この構造こそが、様々な生物に隠れ家や足場を与え、多様な生態系を築き上げたと考えられています。
漂流記録の復元
この研究では、ペットボトルキャップがどういった環境経て高知沖まで漂流したのかも検討されました。
キャップ内の生態系は、底生生物と外洋で付着しやすい生物の両方が確認されています。このことは、キャップが沿岸と外洋の2つの環境を経験したことを示唆しています。
さらに、殻が成長する際に水温を記録する有孔虫を用いて、経験した水温を分析した結果、より暖かい海域を経た後、約22度の海域に至ったと考えられています。
また、海流データに仮想的な粒子を流し、漂流物がどう移動するのかを再現する「ラグランジュ漂流シミュレーション」では、ペットボトルキャップがフィリピン北部周辺から黒潮系の流れに乗り、約70日から最大数ヵ月かけて、高知沖に辿り着いたと推定されました。
プラスチックごみが生物の移動手段に
今回の研究によって、ペットボトルキャップのようなごみでも、ゴカイの巣などが様々な生物が暮らせる構造物になること、生物たちの移動手段になり得ることが示されました。
この結果は、生物の個体だけでなく、生物群集ごと移動する可能性も示唆しています。また、研究グループは、ペットボトルキャップからは日本から記録のない、Eunice bipapillata も確認されていることから、生物地理や外来生物リスクの観点からも考える必要があるとしています。
この研究成果は「Marine Pollution Bulletin」に掲載されています(論文タイトル:Multi-proxy reconstruction of bottle-cap rafting using biofouling communities, stable isotopes and drift modeling)。
(サカナト編集部)