大型の海洋生物などに付着して生活するコバンザメ。ジンベエザメにくっついて泳ぐ姿を水族館で見たことがあるという人も多いのではないでしょうか。
この魚、サメの名を冠していますが、実はサメの仲間ではないのです。この記事では、コバンザメはどういった魚なのか紹介します。
コバンザメとはどんな魚?
コバンザメは、スズキ目コバンザメ科コバンザメ属に属する、70センチほどの魚。コバンザメといえば、ジンベエザメなど、大型のサメにくっついている姿が印象的です。
熱帯・亜熱帯の海に広く分布しており、日本近海にも生息しています。食用として一般に流通することがないため狙って漁獲されることはありませんが、ときどき定置網に入っているそう。港近くでは市場に売られている姿も見ることができます。
背面に小判型の吸盤があり、それを使って大型のサメ類やカジキ類、ウミガメやクジラなどにくっついています。また、船底についていることも。常に何かにくっついているわけではなく、自由に泳いでいることもあります。
コバンザメはサメという名前がついていますが、サメの仲間ではありません。サメは全身が軟骨でできている軟骨魚類と呼ばれる魚で、コバンザメは全身が硬い骨でできた硬骨魚類と、全く異なるグループに属しています。
では、なぜ名前に「サメ」がついているのかというと、サメなどの体につくことや、形がサメに似ていることが由来だそう。また「コバン」は、頭部背面についた小判型の吸盤に由来しています。色々なものにくっつく習性から、「スイツキ」「フナツキ」といった地方名もあります。また英語でも、「sharksucker(サメを吸う者)」「suckerfish(吸う魚)」と吸盤に注目した名前で呼ばれています。
コバンザメの吸盤の秘密 くっつく仕組みは?
コバンザメには先述の通り、頭部の背面に小判型の吸盤があります。この吸盤で大きな水生生物にくっついて生活しています。なぜ他の生き物にくっついて生活をしているのかというと、くっついている大きな生物の食べ残しや寄生虫、排泄物を食べるためです。また、大型の魚にくっつくことで他の肉食魚に狙われる確率を減らすこともできます。このように、片方が得をして片方には利害が発生しない関係を片利共生と呼びます。
コバンザメの吸盤部分には、「隔壁」と呼ばれるひだ状の組織があります。これは普段後ろ向きに倒れていますが、大きな水生生物などに吸盤が触れると垂直に立ちあがります。すると、相手の体と自分の体の間の水圧が周りより低くなり、ぴったりとくっつくことができます。後ろから垂直方向に立つため、後ろから引っ張っても簡単に引き剝がすことはできません。
この構造のおかげで、速く泳げる魚からもくっついたまま剥がれることはありません。逆に、離れたいときは相手より少し速く泳げば簡単に離れることができます。
比喩表現としての「コバンザメ」
日本ではコバンザメの生態を例えて表現することがあります。例えば、権力者など力の強い人の近くにいておこぼれにあずかり、利益を得る人のことです。また、繁盛している店の近くに店を構えることで、その集客効果を活用する「コバンザメ商法」という言葉もあります。
サメの名を冠しながらにおこぼれで生活するコバンザメ。本来のコバンザメは悪いことをしている訳ではないのに、比喩表現となると少しマイナスイメージなのはちょっと可哀想ですね。
(サカナト編集部)