自然観察方法の一例
水族館には、ある程度のマニュアルに則った解説もあります。それらの解説では、インタープリテーションをなかなか発揮できません。もちろん私が勤めていた水族館に限った話ですが、それらは単なる情報伝達に過ぎないのです。
館内を何気なく歩いている時、餌やりでお客さんが集まってきた時など決まったタイミング以外の場面では、インタープリターションを意識して行っていました。
解説方法の一例として、私は「まず風景の全体像を見てみよう」と呼びかけていました。自然観察会であれば、自然環境の全体を見渡す、水族館であればその水槽内を見渡します。
人工的な用水路も見方で印象が変わる
例えば、こちらの用水路。人工的な環境ではありますが、場所によって水草が生えている場所とあまり生えていない場所があります。これはなぜでしょうか。

よくよく観察すると、水流の速い場所、日当たりの良い場所・悪い場所、砂泥の質の違いなどがあることに気がつきます。そして、水草にとって、その場所が居心地がいいのか悪いのかが見えてくるのです。

徐々に視界を狭めると、水草のある環境には魚やエビが隠れている──水草がない場所には遊泳性の高い魚のみが泳いでいる──といったことがわかってきます。
こうした一連の流れを全て口頭では解説せず、共に探して、水にさわって、五感で楽しみ、見つけていきます。

水族館は完全な人工環境下ですが、最近では魚の生態に沿ってレイアウトや環境が構築された展示も多いため、意外とこの手法が通用します。
自分で観察して見つけた自然環境や生き物は、その人にとって特別な存在となります。
私は上記の方法を用いたNACS-Jの観察会で、観察会開始時点から持っていた一枚の葉っぱの名前(植物名)を観察会終了間際まで知りませんでした。最後に明かされた「ケヤキ」という名で、それまで意識もしていなかったケヤキの木が自分にとって特別な木になりました。

自然を感じてみよう
インタープリテーションの原則やカーソンが再三述べているように、自然観察の真髄は「(五感で)自然を感じること」です。
難しい知識や情報はしっかり好きになれば後から身につきます。もちろんフィールドへ行く前にしっかりとした準備や危機回避は必須ですが、詳しくないから行きにくいと思う必要はありません。まずは五感でなんでも感じ取ってみてほしいです。
難しい人は近くの動物園や水族館でも大丈夫です。これらを繰り返し、その地域の自然や生き物に詳しくなっていればあなたも立派な自然観察者(解説員)になれますよ。
(サカナトライター:みのり)
2