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海を越えてつながる“卒魚”の物語 魚の卒業式「卒魚式」でインドネシアの水族館文化について聞いてみた

3月は卒業式シーズン。様々な学校から生徒・学生らが次のフィールドへと進んでいきます。

そして実は、人間だけでなく、魚の卒業式「卒魚式」を行う水族館があります。それが、静岡県清水町にある幼魚水族館です。

もうそろそろ桜も開花しそうな3月中旬、幼魚水族館が開催する「第4回 卒魚式」に参加してきました。卒魚式は、同館で育った魚たちが、次の水族館へ“進学”する節目を見送るイベントです。

幼魚を展示する幼魚水族館では、成長した魚を別の水族館へ託しています。その旅立ちを来館者と一緒に祝う場として、地元清水町の方々にも愛されているイベントです。今回の卒魚式にも、立ち見を含め、100人近くの参列者が集まっていました。

また、今回の卒魚式には、インドネシアのジャワ島にある水族館「BXSea Oceanarium」のケマル館長が対談ゲストとして来日。イベント前に取材の時間をいただいたので、ケマル館長から見た「幼魚水族館と卒魚式」について話を聞いてみました。

海外の水族館が“卒魚先”に

第4回目となる卒魚式では、卒魚先(生き物の受入先)に海外の水族館が加わりました。成長した魚たちは、国内では静岡県の下田海中水族館へ、そして海外ではインドネシアのBXSea Oceanariumへ送り出されます。

BXSea Oceanariumへ進学するのは、ポットベリーシーホースというタツノオトシゴの仲間です。

幼魚水族館で育った生き物が「海を越えてインドネシアへ渡る」という物語に、国際的な連携や教育にもつながるスケールの大きさを感じました。

卒魚式での対談の様子(撮影:taku)

卒魚式で幼魚水族館の鈴木香里武館長は、「幼魚は『目立たない』『飼育が難しい』『そもそも手に入りにくい』といった理由から、水族館で主役になることはなかった」とした上で、「幼魚の展示を始めてみると、多くの人が集まり、園児のみなさんが素敵な歌を届けてくれた。そして、インドネシアから海を越えて館長が来日してくださり、みなさんと特別な時間を共有できた」と感慨深い様子で語りました。

また、「世代も国も越えたご縁をつないでくれたのは、あわずか1cmほどの小さな幼魚たち。そんな小さな存在が、これほど大きな輪を広げてくれたことに深く感動しています」とコメントしました。

ケマル館長が感じた幼魚水族館の魅力

BXSea Oceanariumのケマル館長に話を聞きました。

━━幼魚水族館に感じた魅力や面白さはありますか?
幼魚のみを展示する水族館は世界でもめずらしく、展示の見せ方やメッセージの伝え方に感銘を受けました。教育的な工夫や環境への配慮など、すべてにおいて考え抜かれた展示になっていると感じます。

今回のような交流を通じて、海洋教育について学ぶだけでなく、日本とインドネシアの良い関係を築いていきたいですね。

「ごキケン幼魚」な企画展示(撮影:taku)

━━日本とインドネシアの水族館に「違い」を感じることはありますか?
日本の水族館には、展示による学習や癒しの空間づくりに長けている印象があります。一方でインドネシアの文化は発展途上であり、エンターテイメント性を重視している水族館も少なくありません。

実は2026年3月時点で、インドネシアにある水族館は「たったの6館」です。まずは教育よりも楽しませることに重点を置いている段階であるため、今回の交流を機に教育的な運営方法を学びたいと考えています。

━━今回の対談をきっかけに、BXSea Oceanariumに注目してほしいですね
幼魚水族館から卒魚したポットベリーシーホースは、BXSea Oceanariumの「Seahorse Empires(タツノオトシゴの帝国)」というエリアに展示されます。

実は人間と同じように生き物にも入国ビザの申請が必要なので、来館者に見てもらえるのは4月以降の予定です。観光でインドネシアやジャワ島に来る機会があれば、ぜひ我々の水族館にも立ち寄ってみてください。

「Seahorse Empires」エリア(提供:BXSea Oceanarium)

インドネシアの水族館文化は始まったばかり

ケマル館長の話からは、日本の水族館から学びたい観点として「教育」を意識している様子がうかがえました。

インドネシアの水族館文化は、まだ発展の途中にあるそうです。子どもたちが大きなサメやエイを見てわくわくするように、まずは水族館を「楽しい」と感じてもらう文化が重要視されています。

BXSea Oceanariumは、楽しさの先にある「学びや地域社会」のテーマも掲げている水族館。教育的な要素を取り入れていく転換期として、ケマル館長も今後の水族館文化を見据えているそうです。

今回の取材で印象に残ったのは、インドネシアの水族館文化が「これから広がっていく段階」にあるということ。ケマル館長によると、インドネシアで最初の水族館ができたのは1994年だそうです。

そこから長い空白期間を経て、2館目の水族館ができたのは2017年のこと。BXSea Oceanariumも2023年にできたばかりの比較的新しい水族館であり、まずは来館者に楽しんでもらいながら、文化として根づかせていく段階にあるそうです。

香里武館長が目指す「幼魚を文化にする」ための一歩

最後に、香里武館長にも話を聞きました。

━━海外の水族館との交流を通じて期待することはありますか?
卒魚式をはじめとする幼魚水族館の取り組みには、幼魚を「文化にしたい」という思いがあります。

一時的なブームを起こすのではなく、誰もが幼魚とは「こういうものだよね」と自然に理解できる社会をつくりたい。そして、その文化が海を越えて、海外とも幼魚を通じた交流ができることこそ、私たちの目指す理想の形だと思います。

「ジャヤ!ジャヤ!ジャヤ!」の掛け声で記念撮影(撮影:taku)

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