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素晴らしき“水族館大国”に生きる悦び

さて、上記のような「水族館と研究をする」という仕事は、泉にとってはただの仕事以上の価値を持っていた。なぜなら、俺自身が日本を代表する水族館ヲタクだったからだ。

俺が水族館制覇(新規に訪問することをこのように呼んでいる)を始めたのは2005年、中学2年の頃だった。当時、日本の水族館100館を網羅した『決定版!全国水族館ガイド』(中村元・著、ソフトバンククリエイティブ)という本を書店で入手したことが、すべての始まりであった。

全国水族館ガイド(中村元)。水族館マニアである泉の原点(提供:泉貴人)

もともと俺は水族館好きではあったが、日本にここまで多くの水族館があるとは知らなかった。そりゃ、インターネット黎明期でSNSもなく、情報源が書籍ぐらいだったからね。そこから、青春18きっぷを使った旅行を幾度となく敢行し、全国の名だたる水族館を制覇していった。

十数年後、制覇数が50館を超え、100館に迫る数になった頃、ちょうど上記の水族館との研究が始まった。それは同時に、スタッフさんたちと懇意になることで、今まで展示(表側)のみを見ていた水族館のバックヤード(裏側)を垣間見るという、何よりもの好機になったわけである。

だって、バックヤードなんて、有料ツアーに参加しなければ見られない領域でしょ?マニアとして、役得なんて言葉では語り切れないわけだよ。そして同時に、「水族館生物学」を通して、上記の水族館が為せる役割を深淵まで知ることができたわけだ。

今では、水族館に関する書籍を出版するのみならず、2026年には水族館協会(JAA)の年次会における基調講演を史上最年少で任されるまでになった。

JAA第6回水族館研究会(2026年)にて、基調講演をする筆者(提供:泉貴人)

ただの水族館ヲタク、しかも水族館に所属したことのない者が、水族館“を”仕事にするに至ったのである。

さらには先日、加茂水族館の伝手で、ついに『全国水族館ガイド』の中村元さん本人にお会いして、バイブルにサインまで頂くことができた。いやー、実に冥利に尽きらぁ。

ついにお会いした、中村元氏とのツーショット(提供:泉貴人)

そんな泉だが、20年経った今でも根っこは生粋の水族館マニアであり、水族館制覇の試みを続けている。ただし、訪問が100館、150館と超え、170館に達した現在、水族館制覇の様式も変化してきた。

端的にいうと、水族館が“調べるもの”から“開拓するもの”に変わったのだ。

突然だが、水族館とそうでない施設を区切る基準は何だろうか?水族館を名乗っていること?入館料を取ること?生き物や水槽の数?あるいは、水族館協会や動物園水族館協会に所属していること?……残念ながらどれをとっても、例外的な施設が出てきてしまうのだ。名称は本当に様々で、無料のスゴい水族館もあるし、意外と各協会に加盟していない一匹狼的な施設も多いからだ。

ゆえに、少なくとも現在日本において、水族館の園館数を決めるのは不可能なのだ…それどころか、決める必要もないのだよ。水族館は数を決めてコンプリートするものではなく、マニアが後進のために新たに開拓していくものだからな。目の肥えた個人の基準で、水族館を認定していけばいい、と俺は考えている。

現在訪問した水族館のプロット。北は稚内から、南は沖縄の黒島まで(提供:泉貴人)

なお、150館を超えるととんでもなく独特な水族館が現れるから、別の意味で大変だ。この前なんか、大阪府のひらかたパークの中にオープンしたミニ水族館「プラネット・アクア・ポート」に訪問した時、おっさん一人で遊園地に入るという高いハードルをこなしたからな(笑)

この日本にはそれ以外にも、公共交通機関でのアクセスがほとんど想定されていないという「標津サーモン科学館」(北海道)、飛行機と船とバスと自転車を乗り継ぐトライアスロンみたいな「黒島研究所」(沖縄県)、果ては片道24時間以上かかる“ラスボス”「小笠原水産センター水族館・小笠原海洋センター」(東京都)まで、とんでもない水族館がいくつもある。水族館ヲタクは、究めると果てしなく深い深淵なのだ。

「ラスボス」と名高い、小笠原海洋センター。都内から片道24時間!(提供:泉貴人)

──さあ、今後はどんな水族館に訪問することになるのだろう。そして、どんな水族館と仕事をすることになるのだろうか。未来がとても楽しみだ。

最後に宣伝。上記の水族館生物学の話は拙著『水族館のひみつ-海洋生物学者が教える水族館のきらめき』(中央公論新社)に詳しい。また、水族館マニアの生態を描き出す本も、絶賛執筆中である。是非、著者を印税収入で助けると思ってそちらもお買い求めください。

いずみ・たかと●1991年生まれ。福山大学海洋生物科学科・講師。

専門はクラゲおよびイソギンチャクの分類学・生態学・進化学。イソギンチャクの新種報告数は日本歴代トップ。著作に『なぜテンプライソギンチャクなのか?』(晶文社)、『水族館のひみつー海洋生物学者が教える水族館のきらめき』(中央公論新社)がある。YouTubeチャンネル『水族館マスター・クラゲさんラボ』にて、学術系テーマで日々発信を行うYouTuberでもある。水族館の訪問数は170館以上。

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サカナト編集部

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