環境マイクロバイオーム(環境微生物叢)の研究開発などを行う株式会社BIOTAは、微生物多様性をネイチャーポジティブ・ファイナンスや都市開発の評価指標として活用する新たなアプローチを提唱する論文を発表しました。
論文では、これまで生物多様性評価で十分に考慮されてこなかった微生物に着目し、環境再生と公衆衛生の向上を両立する可能性について論じています。
同論文は、生物多様性分野の国際学術誌「npj Biodiversity」に掲載されています(論文タイトル:Microbial diversity as the next frontier of payments for ecosystem services in nature-positive finance)。
生物多様性評価で見落とされてきた微生物の役割
近年、生物多様性の損失を食い止め、自然を回復軌道へと導く「ネイチャーポジティブ」の考え方が世界的に広がっています。
企業や金融機関には、自然資本への依存や影響を把握し、情報開示を進めることが求められており、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への対応も進んでいます。
一方で、従来の生物多様性評価や生態系サービスへの支払い(Payments for Ecosystem Services:PES)の仕組みでは、森林や野鳥、魚類など目に見える生物に注目が集まりやすく、微生物の役割は十分に評価されていないといいます。
PESとは、水質浄化や炭素吸収、生物多様性保全といった自然環境がもたらす価値に対し、その維持・向上に取り組むものへ経済的な対価を支払う仕組みです。
従来のPESは限定的な位置付けに留まっている(提供:株式会社BIOTA)論文では、炭素循環や窒素循環、水質浄化、土壌形成といった生態系機能の維持に加え、人間の健康にも微生物が深く関わっている点を指摘。そのうえで、微生物多様性を適切に評価し、自然資本の枠組みに組み込むことが、より包括的なネイチャーポジティブの実現につながるとしています。
都市環境や公衆衛生への応用にも期待
微生物多様性を評価指標として活用することで得られる可能性についても考察しており、その一例として挙げられているのが、公衆衛生分野への応用です。
自然環境に存在する多様な微生物との接触は、人間の免疫機能の発達を支える要因の一つとされており、都市部の緑地やグリーンインフラを健康増進の観点から評価する新たな視点につながる可能性があるといいます。
都市部のグリーンインフラ(提供:PhotoAC)また、水質管理への活用も期待されています。
現在の水質評価は特定の指標菌の有無に依存するケースが多い一方、微生物多様性を活用したモニタリングを行うことで、水環境の変化や異常をより早い段階で把握できる可能性があるとしています。
さらに、多様な土壌微生物は有機物の分解や養分循環を担っており、生態系の安定性や炭素貯留能力の向上にも寄与すると考えられ、気候変動による環境ストレスへの耐性向上や農業生産性の維持にもつながる可能性があるとしています。
ゲノム解析技術による「見えない生態系」の可視化
微生物を生物多様性評価に組み込むうえで課題となっていたのが、測定や定量評価の難しさでした。
しかし近年は、ゲノム解析技術の発展により、環境中に存在する微生物の種類や分布状況を詳細に把握できるようになっています。
BIOTAは、微生物多様性を定量的な指標として評価できる可能性を提示。こうした技術を活用することで、従来の病原菌検査を中心とした管理手法から、微生物の多様性そのものを評価するモニタリングへの転換が進むとの見方を示しています。
また、今後拡大が見込まれるネイチャーポジティブ・ファイナンスにおいても、微生物多様性が新たな投資評価の対象となる可能性があるとしています。
今回の研究は、生物多様性保全の対象を「見える自然」から「見えない生態系」へと広げる視点を提示するものであり、金融や都市開発分野における新たな評価手法として注目されそうです。
(サカナト編集部)