“フグの王様”とも呼ばれる、トラフグ。天然ものを高く評価する人も多いですが、淡路島の南にある福良湾では、養殖でありながら存在感を放つ「淡路島3年とらふぐ」が育てられています。
名前の通り、育成期間は3年。一般的な養殖のとらふぐは2年以内に出荷されることが多いのに対し、淡路島の3年とらふぐはさらに時間をかけて大きく育てます。南あわじ市によると、出荷時の重さは1.2〜1.8kgほど。農林水産省のGI登録情報では、一般的な養殖とらふぐと比べて約1.5〜2倍の大きさになるとされています。
ここまで時間をかけて育てる理由には、単にサイズを大きくするためだけではありません。しっかりとした歯ごたえや、噛むほどに感じられる旨味も、このフグならではの魅力です。
では、なぜ福良湾ではこれほど立派なトラフグが育つのでしょうか。その背景をたどると、鳴門海峡に近い海の環境と、地元の漁業者が長年磨いてきた養殖技術が見えてきます。
普通のトラフグと淡路島3年とらふぐ——何がどう違うのか
「淡路島3年とらふぐ」という名前を見て、なぜわざわざ通常より3年も育てるのか気になる人もいるかもしれません。
一般的な養殖とらふぐは、2年ほどで出荷されることが多く、800g以下のものが中心です。それに対し、福良湾で育てられる3年とらふぐは、出荷時には1.2〜1.8kgほどになります。
トラフグのイメージ(提供:PhotoAC)数字だけを見ても、ひと回りどころではない大きさです。育てる期間を1年延ばすことで、身の厚みもしっかりしてきます。
南あわじ市では、1.2kgを超える頃になると、養殖魚に見られる黒いすじが消えていき、身も締まってくると紹介しています。天然のとらふぐに近い味わいになるとされているのも、3年育成ならではの特徴です。
白子も見逃せない
もうひとつ見逃せないのが白子です。長く育てた個体ほど白子も大きくなり、食べ応えが出てきます。
濃厚な味を楽しみたい人にとっては、“3年もの”を選ぶ理由になりそうです。
ただし、3年間育てればいいというほど簡単ではありません。飼育期間が伸びればエサ代は増えますし、育成中の病気やへい死のリスクも長く抱えることになります。
それでも3年ものが作られているのは、大きさだけでは測れない身質や味の違いがあるからです。
鳴門海峡の潮流が味を変える——福良湾という特別な環境
淡路島3年とらふぐのおいしさを支えているのは、育て方だけではありません。福良湾という海そのものも、大きく関係しています。
福良湾があるのは、鳴門海峡のすぐ近くです。潮の流れが速いことで知られる場所で、トラフグにとっても決して穏やかな環境とはいえません。
福良湾(提供:PhotoAC)流れのある海では、いけすの中にいるとらふぐもよく泳ぎます。じっとしている時間が少なく、それだけ体を動かすことになります。農林水産省のGI登録情報にも、鳴門海峡の速い潮流によって運動量が増え、身質などの向上につながることが記されています。
福良湾は水温が低め
実は、福良湾は水温が低めなのも特徴です。そのため、トラフグの成長には時間がかかります。
暖かい海なら早く大きくなるところを、福良湾ではじっくり育っていく──そこで無理に早く出荷するのではなく、3年かけて育てる方法が選ばれてきました。
時間がかかることだけを見れば、不利な条件にも思えます。ただ、ゆっくり育つ環境と潮の流れが組み合わさることで、淡路島3年とらふぐらしい身の締まりにつながっています。
福良の海では、育ちにくさを避けるのではなく、その環境に合わせて育てる。3年養殖は、そんな土地ならではの方法といえそうです。
冬しか味わえない——淡路島3年とらふぐの味わい
淡路島3年とらふぐがいちばん楽しみな季節は、11月から3月ごろまでの冬です。南あわじ市によると、水温が下がる時期ほど身が締まりやすく、なかでも真冬は味がのる時期とされています。
てっさで食べると、まず感じるのはしっかりした歯ごたえ。噛んですぐに強い味がくるというより、あとからじわっと旨味が広がってきます。淡白な魚ではありますが、物足りなさはなく、噛むほどに味が出てくる印象です。
てっさのイメージ(提供:PhotoAC)てっちりでは、刺身とはまた違った良さがあります。火が入ることで身はふっくらしつつ、ほどよい弾力も残ります。アラから出た旨味が鍋全体に回るので、ふぐそのものだけでなく、野菜や締めまで楽しみたくなります。
冬の楽しみとして外せないのが白子です。3年かけて育てた個体は白子も大きくなりやすく、なめらかな口当たりと濃い甘みを味わえます。白子を楽しみに、冬の淡路島へ足を運ぶ人もいるほどです。
福良港の周辺や島内の宿、料理店では、3年とらふぐを使ったコース料理も多く見られます。冬になると「淡路島へふぐを食べに行く」という楽しみ方ができるのも、この地域ならではです。