大型の海藻から成る昆布類の森は、海洋生物のすみかだけでなく、炭素循環などを支える重要な役割を持っています。
しかし近年、世界各地で昆布類の森が衰退。原因として海水温の上昇や海洋熱波などの気候変動、藻食性魚類やウニによる食害が指摘されてきました。
温帯域と亜熱帯域の移行帯に位置する伊豆半島では、カジメやアラメを中心とした昆布類の森が広く分布しています。一方、この海域では2017年8月~2025年4月の黒潮大蛇行の時期に海水温上昇や海洋熱波の増加が生じました。
そこで、筑波大学生命環境系のHARVEY Benjamin 助教らの研究グループは、伊豆半島を急速な海洋温暖化に対する昆布類の森変化を調査するモデル地域と捉え、昆布類の森の衰退と物理的・生物的要因を明らかにすべく、先行研究で得られたデータの解析や室内実験を行いました。
この研究成果は『Global Change Biology』に掲載されています(論文タイトル:Unprecedented warming and increased herbivory drive collapse of Japanʼs kelp forests)。
世界各地で昆布類の森が衰退
カジメやアラメなどが形成する昆布類の森は、魚類や無脊椎動物の重要なすみかとなるほか、炭素循環にも欠かせない存在です。
しかし近年は世界的に昆布類の森が衰退。原因として海水温上昇、海洋熱波といった気候変動に加え、藻食性魚類やウニ類による食害が指摘されてきました。
昆布類の森が衰退することで、生物多様性が失われ、海藻が減少した状態「磯焼け」へと移行する場合もあります。
日本における磯焼け
海洋温暖化は、海藻そのものへのストレスだけでなく、魚類の分布や活動期間も変化させます。
日本沿岸における磯焼けの原因としてよく知られる魚がアイゴとブダイ類です。これらの魚は海水温が高い時期に摂食活動が活発化します。
アイゴ(提供:PhotoAC)こうしたことから、海水温上昇による昆布類の衰退に加え、藻食性魚類が長い期間活動することで、衰退と回復阻害が同時に進行する可能性が考えられています。
伊豆半島に分布する昆布類の森
温帯域と亜熱帯域の移行帯に位置する伊豆半島。ここでは、カジメやアラメを中心とした昆布類の森が広く分布しています。
一方、2017年8月から2025年4月まで続いた黒潮蛇行の期間には、海水温の上昇や海洋熱波の増加が生じました。
研究グループは、伊豆半島を海洋温暖化に対する昆布類の森変化を調査するモデル地域として捉え、先行研究の調査データや室内実験などを組み合わせ、昆布類の森の衰退との関連性を分析しました。
下田を中心とした約200キロ沿岸を評価
今回の研究で対象となったのは、下田を中心とした伊豆半島約200キロの沿岸部です。
研究グループは、1980年代から現在までのカジメの現存量記録、2009年以降の海藻被度調査、衛星観測による海水温・海洋熱波データ、藻食性魚類の野外調査と、カジメの幼体を用いた室内での高水温実験を組み合わせ、昆布類の森の長期的な変化や、温暖化や魚類による食害との関係を分析しました。
カジメが著しく減少
長期観測データでは、下田の主要な調査地点で2009~2010年に75~80パーセントを占めていた急速に低下し、2022~2023年には確認さなくなったといいます。
また、1980~1981年には最大2.37キロ(乾燥重量)/平方メートルあったカジメの現存量が2023~2024年の調査で確認されず、局所的に消失していることが判明。
さらに、伊豆半島では黒潮大蛇行が続いた2017~2024年における、海水温の上昇速度は、1982~2016年の0.15度/10年から2.98度/10年へ大きく増加していることも明らかになっています。
高水温のストレスと長期化した食害
室内実験では、カジメ幼体の光合成能力が約29.6度を境に急速に低下すること、32~33度では光合成機能を維持できなくなることが分かっています。
また、藻食性魚類の摂食行動と水温の関係では、黒潮大蛇行時には一部の種で摂食に適した水温になる時期が約71日早まり、年間の摂食可能時期が最大で約86日に長期化。これらの結果から、高水温によるストレスに加え、長期化した藻食性魚類の食害が昆布類の森の回復を阻害し、伊豆半島の磯焼けへの移行に強く関係していることが示されたのです。
昆布類の森を保全する重要な手掛かりに
今回の研究によって、カジメが約29.5度を超えると光合成能力が急速に低下すること、海水温の上昇により藻食性魚類による食害が長期化することが明らかになり、磯焼けへの移行との強い関連性が示されました。
この成果は日本各地の温帯域で起こっている昆布類の森変化を予測し、適切な保全策を考える重要な知見になるとされています。
また、研究グループは、今後も昆布類の森を長期モニタリングすることで、高水温と食害の両方を考慮した保全および再生手法の検討を進めていくとしています。
(サカナト編集部)