水族館でオオカミウオを見て、その顔つきに驚いた人もいるかもしれません。
大きな目に、口元からのぞく鋭い歯。名前も相まって、いかにも気性が荒そうに見える魚です。
しかし、見た目とは違って性格は比較的おとなしく、繁殖期には卵を大切に守る姿も見られます。
なぜオオカミウオは、このような子育てをするのか──北の冷たい海で暮らすオオカミウオの生態とは一体どのようなものなのでしょうか。
寒い海にすむオオカミウオ
オオカミウオ(学名:Anarhichas orientalis)は、スズキ目オオカミウオ科の海水魚です。
北海道の沿岸をはじめ、青森県や新潟県以北の日本海、オホーツク海、ベーリング海、アラスカ湾などに分布しています。
知床半島(提供:PhotoAC)主に水深50〜100メートルほどの岩礁域で暮らしており、全長が1メートルを超える個体もいます。
オオカミウオを見て、まず気になるのは口元。口の前方には犬歯のような大きな歯があり、その奥には臼歯に似た歯が並んでいます。
この歯は見た目が怖いだけでなく、餌を食べるうえでも欠かせません。ウニや貝類などの硬い殻を噛み砕くことができ、タコ類も餌にしています。
これだけ立派な歯を持っていると、近づくだけでも危険な魚に思えるかもしれません。ところが、普段のオオカミウオは意外にもおとなしい魚です。
迫力のある顔つきと、普段のおとなしい様子。その違いもオオカミウオの魅力と言えるでしょう。
親魚たちの子育ては冬の岩礁で始まる
オオカミウオの繁殖期は秋から冬にかけてです。知床半島のウトロ側では10月中旬ごろから繁殖が始まるとされており、冬には直径20センチほどの卵塊を産卵します。
産卵後、親魚は卵塊に体を巻き付けるようにして外敵から守ります。岩礁の隙間や定置網の土俵(底部の重り部分)など、身を隠せる場所を好んで産卵場所に選ぶのも、卵を守るための行動と考えられます。
実は、卵を守る行動はオオカミウオ科の魚だけに見られるものではありません。同じゲンゲ亜目に属するギンポの仲間にも、卵塊を守る習性を持つ種がいます。
オオカミウオも、こうした魚たちと同じように、卵を守りながら子孫を残しているのです。
北の寒海ならではの生態
なぜオオカミウオは、厳しい冬の海で子育てをするのでしょうか。
ひとつの理由として、水温が低い冬の岩礁域は大型捕食者の活動が鈍くなりやすいことが挙げられます。
また、冷水域では卵の発育がゆっくり進むため、親が長期間にわたって卵を保護することで、孵化成功率を高めることができると考えられます。実際、オオカミウオが好む岩礁帯は、身を隠しながら卵を守るのに適した地形でもあります。
オオカミウオ(etcPhotoAC)その一方で、「岩礁に寄り添ってじっとしている」という行動は、大型で動きが緩やかなオオカミウオだからこそ長期間続けられるとも言えます。まるで北の荒波を盾にするかのように、親魚は卵を守り続けるのです。
恐ろしげな顔つきや鋭い歯が印象的なオオカミウオですが、その生態を知れば知るほど、北の海に巧みに適応した魚であることが見えてきます。
冬の岩礁でひっそりと卵を抱える姿は、見た目からはなかなか想像できません。
水族館でオオカミウオを見かけたとき、「この魚も今頃、どこかの岩陰で卵を守っているのかもしれない」と思い出すと、少し見え方が変わるのではないでしょうか。
(サカナトライター:原田大樹)