私は魚類の耳石の研究を行っていることもあり、好きな水生生物は硬骨魚類全般であるが、そのなかで最も好きなものはウツボ科魚類である。ウツボ科魚類はウナギ目に属しているが、胸鰭を有せず、側線も退化しておりほかのウナギ目の多くの科とは異なっている。
可愛いウツボたちとの思い出
ウツボ科魚類はよく「海のギャング」という恐ろしげなイメージで語られることが多い。たしかに小魚やタコなどを食べる肉食性の魚であり、多くの種が鋭い歯を有しているが、私がもつウツボのイメージは、やはり鋭い歯をもつイヌなどと同様に、「歯は鋭いが愛らしい生き物」となっている。
とくに私が飼育しているウツボ科魚類の1種であるクモウツボは歯が小さく、雌の歯は臼歯状であるため手からも餌を与えることもでき、その顔もよく見ると可愛い顔をしている。
私はクモウツボを何回も飼育しており、現在飼育しているものは三代目になる。初代から三代目まですべてサンゴ礁域の浅瀬で採集したものになるが、その採集した場所も、干潮時、水のほとんどなくなってしまった潮だまりで、大きな岩の下の中でじっと潮が満ちてくるのを待っていたものであった。
また別の潮だまりでは、水がほとんどない場所でアセウツボがはい回り、網を出して捕まえようとしたところ、ジャンプして逃げてしまった、ということがあった。
そんな楽しい思い出もあり、また逆にヘリシロウツボや、現在飼育しているサビウツボに手を咬まれて怪我をするなどの痛い思い出もあったが、そのように濃くウツボと接してきたことにより、ウツボ科魚類は私にとってもっとも好きな水生生物となった。
ウツボは新種や新知見が出る可能性が高い
ウツボ科魚類は世界で200種以上が知られ、ウナギ目の科としてはウミヘビ科に次いで種数が多い。生息場所も先述のクモウツボやアセウツボのような潮だまりにすむものから、深場にすむユリウツボやアミウツボ、そしてコクハンカワウツボのような河川に見られるものまでさまざま。
サンゴ礁の浅瀬に多くの種が見られ、黒潮流れる太平洋岸の磯採集で見られる機会が多いというのは、採集愛好家にはうれしいことであるし、近年も新種記載や日本初記録種が報告されるなど、今後も新種が出る、あるいは新知見が出る可能性が高いグループである。
ウツボで欠かせないのが食文化
そしてウツボを語る上で欠かせないのが、ウツボを食する文化である。私はウツボを飼育し愛でるのも好きであるが、ウツボを食するのも大好きである。
毎年高知へ旅行するのだが、その際には必ず帰る前にウツボのタタキを購入し、家に帰ってからじっくり楽しむことにしている。採集も、飼育も、そして食することも楽しむことができるウツボ科の魚は私にとってもっとも大好きな魚となっている。
(サカナトライター・椎名まさと)