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春の磯で見かける綺麗で可愛い<ウミウシ> 長期飼育が難しい理由は「餌」と「寿命」にあり?

春の磯では、ウミウシの仲間に出会うことがあります。

白い体に黒い斑点があり縁辺が黄色いシロウミウシや小さい体に青色が目立つアオウミウシなどが、カズナギ属やカジカの仲間などの小魚と一緒に採集中の愛好家のバケツに入っている様子は、この時期よく見かける光景です。

しかし、ウミウシの長期の飼育は難しいところがあり、持ち帰ることはあまりおすすめできません。なぜウミウシの長期飼育は難しいのでしょうか。

ウミウシとは

ウミウシは軟体動物門・腹足綱に含まれている生物です。「腹足綱」と聞くと、あまりなじみのないような名前ですが、この綱に含まれる「サザエ」や「アワビ」、「バイ」、あるいは「カタツムリ」「ナメクジ」などを挙げると、急に親しみを覚える人も多いのではないでしょうか。

そんな腹足綱のなかで、ウミウシは貝殻をなくした、または退化的なものが多いです。

福岡県津屋崎のシロウミウシ(撮影:椎名まさと)

色彩が美しく、また形態も多様であることから、特にダイバーに人気が高い生物で、ダイバー向けのウミウシ図鑑なども多数出されています。

そんなウミウシの中でも、アメフラシは地方によって食用とされていますが、そのほかの種はほとんど利用されることはありません。

採集は簡単で、磯ではいろいろなウミウシを見ることができます。また、観賞魚専門店においても、観賞用としてカラフルなウミウシが販売されていることがよくありますが、長期飼育は難しい生き物であるため、手を出さないほうが無難です。

ウミウシの長期飼育が難しいワケ

ウミウシを長期飼育するのが困難である理由は主に二つあります。

ウミウシの食性の問題

ウミウシの仲間は食性が不明なものが多く、仮に食性がわかっていても、水槽内でそれらを安定して供給することは難しいものとされています。

例えば、メリベの仲間は動物性のプランクトンや小型の甲殻類を餌として捕食しているために、まだ餌の確保は難しくはなさそうです。

千葉県外房で採集したムカデメリベと思われるもの(撮影:椎名まさと)

しかし、アオウミウシなどのイロウミウシ科のウミウシはカイメンを、アメフラシの仲間は海藻などをそれぞれ餌にしています。これらの入手および保管は、海のそばに住んでいる方であればともかく、都市部にすむアクアリストにとっては決して簡単なものではないといえます。

また安定的に餌の供給ができても、別の問題もあるのです。

ウミウシは寿命が短い

種類によって寿命は異なるものの、ウミウシ自体の寿命も短く、大体1年ほどで寿命を迎えることが多いようです。

また少なくともアオウミウシなどの種類は、幼生は浮遊する性質があるため繁殖も難しく、飼育というよりも、ほとんど消費に近い感じになっているのかもしれません。

現状ではウミウシの長期飼育は困難であり、観察だけして逃がしてあげるのがベストといえるでしょう。

「招かざる客」のウミウシ

一方、海水魚やサンゴを飼育していると、採集してきたわけでもないのにいつの間にか水槽内にウミウシが入っていた! なんていうケースもあります。

主にミノウミウシ小目のウミウシが、ライブロックやサンゴなどに付着しており、そこから水槽に入ってくるというケースがほとんどです。

コモンサンゴを食害するミノウミウシの仲間(撮影:椎名まさと)

上記写真の白いウミウシはミノウミウシ小目のものと見られますが、種は不明です。コモンサンゴを購入し水槽に入れたら付着していました。

それからが大変で、水槽中のコモンサンゴにこのウミウシがついてしまい、結局食べつくされてしまいました。水槽内でも卵を確認しており、このミノウミウシは水槽内で産卵し増殖することができる種類のようです。

ほかにも、コモンサンゴと同じ六放サンゴであるイボヤギにも、イボヤギミノウミウシがついているのを観察したことがあります。このウミウシはイボヤギとほとんど同じ色をしていて、しっかり観察しないとなかなかわかりません。

ソフトコーラルにもウミウシがついていることも

ウミアザミについていたウミウシ(撮影:椎名まさと)

このほか八放サンゴ、いわゆるソフトコーラルにもウミウシがついていることもあります。

ウミアザミ類などについているラドマンミノウミウシやクセニアウミウシ、ムラサキハナヅタ(通称スターポリプ)についているセンジュミノウミウシなどの擬態は見事なものですが見とれてはいけません。

ウミアザミの一種(撮影:椎名まさと)

これらのウミウシもソフトコーラルを食害してしまうので、やがてサンゴが減退、水槽から消失してしまうおそれがあるからです。

見つけ次第スポイトで吸い取るなどして駆除しましょう。

サンゴに付着する生物を洗い流す洗浄剤(撮影:椎名まさと)

ウミウシがついている可能性のあるサンゴを水槽に入れる前には、必ず専用の薬液による薬浴を行い、付着しているウミウシを取り除くようにしたいものです。

とくに最近はカラフルで飼いやすいコモンサンゴの仲間は人気があり、このようなウミウシの仲間を水槽に持ち込んでしまうおそれがありますので、このような薬液はマストといえそうです。

もちろん取り除いたウミウシは家で処分し、海に逃がすことのないようにしましょう。

(サカナトライター:椎名まさと)

文献

中野理枝(2018)、ネイチャーガイド 日本のウミウシ、文一総合出版

国立大学法人 筑波大学 プレスリリース 2024年8月5日「アオウミウシを卵から成体まで育てることに世界で初めて成功」

  • この記事の執筆者
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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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