アジの仲間は「美味しいから“アジ”という名前がついた」といわれるほど美味しい魚たちです。
その中で私が好きな体高の低いタイプのアジ、たとえばマアジ属やムロアジ属などの魚はとくに美味しく、多く漁獲されることから古くから親しまれてきました。
今回はその中でもとくに美味しく、筆者が毎年この時期に食することが多いアカアジについてご紹介します。
アジ科の魚は日本国内に60種以上 脂が乗る夏が旬
アジ科の魚は日本国内においても60種以上が知られています。
極端に漁獲量が少ない、まれな種をのぞきいずれも食用となっており、「アジ」という名前の由来についても「美味な魚」を意味するという説があるなど、美味しい魚として古くから親しまれてきました。
そんなアジは筆者も大好きな魚で、中でも好きなのは、体高がやや低くて細い体つきのアジ、具体的な属名をあげると、マアジ属、ムロアジ属、メアジ属、ちょっと珍しいホソヒラアジ属やマテアジ属といったものです。
周年美味しい魚たちですが、1年でもっとも脂が乗るのは夏とされ、この時期が一般に旬とされます。
初夏になると手に入れたい<アカアジ>
初夏のこの時期、売っていたらかならず購入している魚がいます。それがアカアジです。

筆者は長崎県の魚を10年以上購入しているのですが、この時期にとくに多いように思われ、2025年の初夏にも、アカアジが我が家にやって来てくれたのでした。
漁法は底曳網や定置網、まき網などで、おそらくこの個体もまき網で漁獲されたものと思います。
<アカアジ>の特徴
アカアジDecapterus akaadsi Abe, 1958はムロアジなどと比べ、若干体高が高いため、一見マアジ属の魚に見えますが、第2背鰭および臀鰭の後方に「小離鰭(しょうりき)」があります。

このことから、小離鰭がないのが特徴であるマアジ属ではなく、ムロアジ属の魚になります。そもそも日本産のマアジ属はマアジのみの1属1種です。

アカアジは小離鰭を持つムロアジ属に含まれる種ですが、その中でも尾鰭が鮮やかな赤色になることによって、ほかのムロアジ属の魚の多くとは容易に見分けることができます。
とくに本州~九州に多いマルアジやモロ、クサヤモロといった種は尾が黄色っぽくなり(鮮度が悪いと薄くなったりする)、ムロアジは尾鰭が上葉が黄色で、下葉が暗色になるという特徴をもち、アカアジとは容易に識別できます。
アカアジによく似た魚
アカアジと同じ尾の赤いムロアジ属魚類のなかでも日本国内でよく食されているものに、オアカムロDecapterus tabl Berry,1968というものがいます。

オアカムロはアカアジ同様に尾鰭などが赤くなり、アカアジとしばしば混同されています。
地方により「あかむろ」と呼ばれることもありますが、高知県柏島や紀伊半島では「あかむろ」という名称はタカサゴ類のことも指すなど、ややこしいものです。

オアカムロはムロアジ属らしく細長い体をしていますが、それだけでなく、胸鰭の長さもアカアジとオアカムロでは異なっています。アカアジの胸鰭は、第2背鰭の起部直下を超えますが、オアカムロでは達さないことで見分けることができます。

アカアジは静岡県産の個体をもとに、故・阿部宗明博士により初めて記載されたもので、学名はDecapterus kurroides akaadsi Abe, 1958とされ、属名(Decapterus)、種名(kurroides)、亜種名(akaadsi)の三名法で記されたこの学名はインドネシア モルッカ諸島をタイプ産地とするDecapterus kurroidesの亜種であることを意味しますが、のちに別種とされるようになりました。
しかし、尾の赤いムロアジ属の分類は難航し、アカアジもその後D.kurroidesの異名とされ、日本名にちなんだ種小名も消えそうになりましたが、2013年に尾の赤いムロアジの仲間の1種が新種記載された際にほかの尾の赤いムロアジ属も再記載され、アカアジとD. kurroidesはそれぞれ別種とされました。
なおD.Kurroidesはその後日本(三重県)からも報告され、キツネアカアジという標準和名がつけられました。
アカアジは側線直走部の稜鱗数が29以下と少なく、キツネアカアジは30以上と多いこと、キツネアカアジはアカアジよりも頭長が大きいことなどにより識別できます。
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