深海、砂漠、熱水。一見、生物がいないような環境にも多様な生態系が広がっています。地球の地表面積の約10パーセントを占める氷河もそんな環境の一つです。これまで氷河や氷床は、「生命の不毛地帯」と考えられてきましたが、実際には極限環境に適応した生物たちが独自の生態系を築き上げていることがわかっています。
【画像】氷床にある水たまり(クリオコナイトホール)内に生息する<雪氷藻類>と<シアノバクテリア>
しかし現在、地球温暖化により氷河はかつてないスピードで融解しており、雪氷動物の生物学的特性を解明する前に、生態系そのものが消失する可能性が指摘されています。そのため、実態解明と絶滅リスクの予測が急務となっているのです。
そうした中で、千葉大学環境リモートセンシング研究センターの竹内望教授が参加する国際研究グループは、断片的にしか知られてこなかった雪氷動物の世界規模での多様性と気候変動による影響を解明する初の総合研究を発表しました。
この研究成果は「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載されています(論文タイトル:The global diversity and decline of glacier animals)。
氷河の生物多様性
千葉大学環境リモートセンシング研究センターの竹内望教授が参加する国際研究グループは、過去の膨大な文献から482件もの記録を精査。世界初の包括的なデータセットを構築しました。
ヒマヤラの氷河と氷河特有動物種(提供:国立大学法人千葉大学)その結果、氷河には7門14綱152種もの動物が生息しており、73種は氷河特有動物種であることが判明。この中には氷河で一生を過ごすといった驚きの生態を持つコオリミミズなどが含まれています。
風による移動と分布の広さ
氷河に暮らす動物は、風による移動の有無によって分布の広さも違うことが分かっています。
例えば、クマムシのように風で運ばれる微小動物は広く分布する一方、自立歩行する昆虫などでは分布が局所的であり、彼らは氷河を跨いだ分散が限定的であることが示唆されています。
また、過去に気候変動が比較的安定した地域では、多くの動物種が残っているという歴史的背景も判明しました。
完全に生息地を失う種も
氷河における豊かな生態系が示された一方、深刻な事実も明らかになっています。
研究で収集された動物の分布データと最新の氷河融解シミュレーションを合わせた結果では、中程度の温暖化シナリオでも2100年までに多くの氷河特有動物種が生息地を失うことが予測されました。
特にアルプスやスカンジナビア、コーカサス山脈などでは、いくつかの固有種が生息地を失い、生態や進化の歴史が解明する前に絶滅する恐れがあると考えられています。
氷河における多様性の保全へ
今回の研究によって、氷河の生物多様性が明らかになりました。
また、地球温暖化によりこれらの氷河特有動物種が絶滅の危機に瀕していることもわかっています。
今後は、氷河そのものの消失だけでなく、そこ存在する多様性の保全も考える必要があるとし、生息域外保全など、従来の枠組みを超えた保全策の検討が求められています。
(サカナト編集部)