両岸をコンクリートで護岸された小さな河川。
そんな河川であっても岩をめくると、小さなハゼの仲間が見られることがあります。そのなかに、シマヨシノボリという魚がいます。
このシマヨシノボリは、全国のあちこちの河川でみられる普通種で、容易に採集することができる美しい魚です。
ヨシノボリの仲間たち
ヨシノボリの仲間はスズキ系・ハゼ目ないしスズキ目ハゼ亜目・ハゼ科・ゴビオネルス亜科・ヨシノボリ属に含まれる小型の魚です。
成魚は主に河川の上流から下流に見られ、一部の種は湖沼にも生息。河川の石の下などに産卵しますが、多くの種では孵化した仔魚はいったん海におり、その後河川に遡上することが知られています。
子どもでも簡単に採集できる魚であり、筆者にとっても、河川に生息するこのヨシノボリの仲間が初めて採集したハゼ科魚類となりました。
シマヨシノボリ(提供:椎名まさと)そんなヨシノボリの仲間の中で好きなものを1種あげるとしたら、シマヨシノボリRhinogobius nagoyae Jordan and Seale, 1906でしょうか。
シマヨシノボリはヨシノボリ属の中でも頭部の色彩が派手であり、非常に美しく、また日本の広い範囲に生息していて採集も容易だからです。
初めてのシマヨシノボリ
私が初めてシマヨシノボリと出会ったのは2006年2月。福岡市内の河川で淡水魚を採集していたときでした。
手のひら大の大きさの石が多数並んでいる環境で、石の下に網を入れ、岩ごと網をあげるとその中に入ったのがシマヨシノボリです。
2006年に採集したシマヨシノボリの雄(提供:椎名まさと)雄と雌を各1匹採集し、家に持ち帰って観察。頭部、背鰭、尾鰭に入る赤い線と、臀鰭の青い輝きが大変美しいものでした。
筆者はその美しさに惹かれ以来、本種をはじめとしたヨシノボリ属魚類のファンとなったのです。
2006年に採集したシマヨシノボリ(提供:椎名まさと)それからというもの、あちこちの河川に出かけて、石をめくってヨシノボリの仲間を探すことが多くなりました。
カワヨシノボリ、オオヨシノボリ、シマヒレヨシノボリなど…より多くのヨシノボリの仲間に出会うことができたのです。
ただしヨシノボリの仲間は石の下にひそみ卵を守る習性があるため、ほどほどにしておくべきかもしれません。もちろん、ひっくりかえした石はもとに戻しておきましょう。
シマヨシノボリとほかのヨシノボリとの見分け方
九州以北のヨシノボリ属魚類でふつうにみられるのは、トウヨシノボリ、クロヨシノボリ、カワヨシノボリなどがいますが、これらの種とシマヨシノボリとは頭部に多数入る赤い縞模様によって見分けることができます。
トウヨシノボリRhinogobius sp.なども頭部に赤い模様が入ることがありますが、赤い線は数本とすくなく、ほかに赤色斑点が入る程度であり、シマヨシノボリのように細い線が多数入ることはないので見分けは容易です。
トウヨシノボリ(提供:椎名まさと)また、カワヨシノボリRhinogobius flumineus (Mizuno,1960)とは色彩的な特徴のほか、胸鰭軟条数にも違いがあり、シマヨシノボリでは胸鰭軟条数は19~22であるのに対し、カワヨシノボリでは15~17と少ないことでも見分けられます。
カワヨシノボリ(提供:椎名まさと)シマヨシノボリは多くのヨシノボリ属魚類と共存しており、筆者が訪れた静岡県の河川ではカワヨシノボリと、琉球列島の河川ではアヤヨシノボリやクロヨシノボリ、四国の豊後水道に流れる河川ではゴクラクハゼと共存していました。
丘陵地を流れる河川や小規模な河川の下流では普通に見られるもので、両岸がコンクリートで護岸されたような場所でも多く採集されます。
お腹が青いシマヨシノボリ
ヨシノボリ属の魚は多くの種で雌雄で第1背鰭の形がややことなることが知られています。雄は第1背鰭の先がとがり、雌は丸みを帯びているので、残念ながら雌の個体は格好良さではいまいち、雄におとります。
しかし、石垣島などの琉球列島でシマヨシノボリの雌を採集したとき、腹部がとても鮮やかな青い色になるのに驚きました。
琉球列島のシマヨシノボリの雌(提供:椎名まさと)卵を持っている雌の腹部は、このようにあざやかな青い色になるようです。まるで、南米に住むモルフォチョウの仲間のような、電撃的な青さです。
琉球列島産のものだけでなく、九州以北でみられる個体群であっても、お腹は鮮やかな青色となっています。5月の終わりに茨城県の田園地帯を流れる小川で採集した個体も、鮮やかな青いお腹が印象的でした。
茨城県産のシマヨシノボリの雌(提供:椎名まさと)一方、残念なことに、2006年に福岡市で採集したシマヨシノボリは産卵期になってもお腹が青くなるということはありませんでした。おそらく水質や栄養不足などで産卵のスイッチが入らなかったのかもしれません。
シマヨシノボリを飼育する
筆者は日本産淡水魚をいろいろ飼育してきました。もちろん、先述したように、シマヨシノボリの飼育経験もあります。
しかし、シマヨシノボリは採集してしばらくは状態よく飼育できていても、やがて死んでいくということがよくありました。
飼育中のシマヨシノボリ(提供:椎名まさと)水質や水温などに問題があるのかと思い、水かえを頻繁にするとか、涼しい部屋に水槽を置くなどの対策を行っても、あまり長生きしてくれませんでした。口を大きく開けて死んでしまっていることが多く、もしかしたら酸欠に弱いという特徴があるのかもしれません。
うまく持ち帰ることができても、餌をなかなか食べなかったり、逆によく餌を食べてくれたりと、なかなか飼育のポイントがつかみにくいところがあります。個体によっては他の魚の鰭をかじり食べてしまうという悪癖がある個体もいますが、手に負えなくなっても放流は厳禁です。
シマヨシノボリの2つの集団
シマヨシノボリという魚は、九州以北と琉球列島(屋久島以南)の二つの集団があるとされています。
外見的には、琉球列島のものは頭部に入る赤い帯の太さなど、九州以北のものとはやや違いが見られるほか、両者は遺伝的にも相違があるようです。
シマヨシノボリは九州以北と琉球列島の個体群は斑紋が異なる(提供:椎名まさと)このような地域個体群を別の場所に放す、たとえば九州以北の地域個体群を琉球列島産個体群の生息する地域に放してしまうと、競合や、交雑による不稔が生じるおそれがあります。
また、寄生虫やら二枚貝の幼生(グロキディウム幼生)、あるいは同じ水槽で飼育していた魚の病原菌などが付着しているケースもあり、たとえ採集した場所と同じ場所であっても生物の放流は慎まなければなりません。
シマヨシノボリは愛らしい魚
シマヨシノボリはカラフルで愛らしい魚であり、数も生息地も比較的多いです。
ぜひとも探しに行ってみてはいかがでしょうか。
もし飼育するときは上記の注意点をしっかり読んでください。飼育した個体が気性が荒く混泳が難しいから、といって放流などは絶対にしないようにしましょう。
参考文献・参考URL
藤岡康弘・川瀬成吾・田畑諒一 編. 2024. 琵琶湖の魚類図鑑.サンライズ出版.彦根.
中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野.
中坊徹次編. 2018. 小学館の図鑑Z 日本魚類館.小学館.東京.528pp.