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コラム

名古屋港水族館の<公式同人誌>取材でわかった水族館のコト【連載:わたしと水族館】

水族館は、不思議な場所です。同じ水槽を見ていても、そこに映るものは人それぞれ。魚の姿に心を奪われる人もいれば、静かな時間に安らぎを感じる人もいます。研究の対象として向き合う人、仕事の現場として日々関わる人にとっては、また違った景色が見えていることでしょう。連載「わたしと水族館」では、さまざまな立場の書き手のみなさんに、水族館にまつわるエッセイを寄せていただきます。今回は、漫画家・イラストレーターのふくのうみさんにご寄稿いただきました。

名古屋港水族館は、名古屋港ガーデンふ頭にある日本最大級の水族館です。約500種、5万匹もの生き物たちに出会うことができます。

館内ショップには、オリジナルグッズやお菓子、関連書籍などが並んでいます。

その中に、少し変わった本があります。『水族館つくろう物語』です。

『水族館つくろう物語』(提供:ふくのうみ)

2022年冬のコミックマーケットで先行販売された、名古屋港水族館の「公式同人誌」で、私はその作画を担当しました。

「名古屋港水族館」誕生の歩みを描いた“公式”同人誌

名古屋港水族館は1992年10月29日に開館しました。2022年はちょうど30周年にあたる節目の年です。その記念企画として、開館当初を知る職員の皆さまへのインタビューをもとに、水族館誕生までの歩みを漫画としてまとめることになりました。

取材では総勢18名の方にお話を伺うことができました。館長、飼育係、獣医師、接客スタッフ、事務職員、設備担当者など、その職種はさまざまです。漫画に登場するエピソードはすべて実際の取材に基づいていますが、読みやすさや構成の都合上、一部再構成を行っています。そのため本作は「事実に基づくフィクション」としています。

30周年の年に前編を刊行し、その後2023年に中編、2024年に後編を発行することができました。

『水族館つくろう物語』より(提供:ふくのうみ)

現在の名古屋港水族館は北館と南館で構成されていますが、最初にオープンしたのは南館です。鯨類を展示する北館は、その9年後の2001年に開館しました。

南館のテーマは「南極への旅」。

ガーデンふ頭に係留されている南極観測船「ふじ」の航路をたどるように、「日本の海」「深海」「赤道の海」「オーストラリアの海」「南極の海」の五つの海域に暮らす生き物たちを紹介しています。

「ふじ」の航路(提供:ふくのうみ)

名古屋港水族館を訪れた際は、ぜひ隣接する南極観測船ふじも見学してみてください。水族館の展示テーマへの理解が深まり、より一層楽しめると思います。

南極観測船ふじ(提供:ふくのうみ/撮影場所:名古屋港水族館)

実は私自身、『ふじと南極のなかまたち』(KADOKAWA、2022)という漫画を描いています。南極観測船ふじの最初の南極航海をモデルにした作品です。

ふじは生涯18回にわたり南極観測を支えました。過酷な自然の中で任務を果たし続けたその姿に魅了され、漫画を描くことにしたのです。

私にとって「ふじ」は特別な存在です。そのふじの航路が、後に名古屋港水族館の展示テーマになったことに不思議な縁を感じています。

私たちは実際に南極へ行かなくても、水族館を通してその旅を疑似体験することができます。それはとても贅沢で、ありがたいことだと思うのです。

水族館とはどのような施設か

さて、水族館とは何でできているのでしょうか。

生き物がいればよいのでしょうか。飼育員さんがいて、大きな建物があって、水や餌を用意して……。いや、それだけではないはずです。

お祭りの金魚くらいしか飼育経験のない私にとって、水族館の運営は想像もつかない世界でした。取材前は「飼育員さんのお話を中心に伺うことになるのだろう」と思っていました。しかし実際には、総勢18名もの職員の方々にお話を聞くことができました。

館長、飼育係、獣医師、接客スタッフ、事務職員、設備担当者──。それぞれ立場も仕事内容も異なります。しかし皆さんのお話から共通して伝わってきたものがありました。

それは、「良い水族館をつくりたい」という強い思いです。

まだ何もないところから施設を立ち上げ、生き物たちを迎え、お客様に楽しんでもらえる場所をつくる。そのために多くの人が試行錯誤を重ねていました。

私は取材を通して、水族館とは建物や展示だけでできているのではなく、人の情熱によって支えられている場所なのだと感じました。

どれほど立派な施設を建てても、どれほど珍しい生き物を集めても、そこに働く人たちの思いがなければ愛される水族館にはなりません。だからこの漫画のタイトルを『水族館つくろう物語』にしました。

『水族館つくろう物語』より(提供:ふくのうみ)

「創る」という前向きな言葉の裏には、「繕う(つくろう)」「苦労(くろう)する」といった目立たない仕事もあります。多くの人の努力の積み重ねによって、水族館は今日も運営されています。

そして本作は、そんな人たちの歩みを描いた「物語」でもあるのです。

イギリスからきたジェンツーペンギンたち

取材したエピソードはどれも興味深く、一つだけ選ぶのはとても難しいのですが、特に印象に残っているものをいくつかご紹介します。

まずはペンギンです。

私は『ふじと南極のなかまたち』で南極のペンギンたちを描いていたこともあり、ペンギン担当の方のお話には特に興味を引かれました。

『水族館つくろう物語』より(提供:ふくのうみ)

名古屋港水族館で最初に飼育・展示されたジェンツーペンギンたちは、イギリスのエディンバラ動物園からやって来たそうです。

今思えば当たり前のことなのですが、その話を聞いて私は初めて「水族館の生き物はどこから来るのか」を意識しました(水槽から生えてくるとでも思っていたのでしょうか…自分の無知が怖いです)。

採集される生き物もいれば、購入したり、他の園館から譲り受ける生き物もいる。水族館はひとつの施設だけで成り立っているのではなく、日本中、そして世界中の園館とのつながりの中で支えられているのです。

南極へ行かなければ出会えないペンギンを、日本で毎日観察できる。それは当たり前のようでいて、実はとても特別なことなのだと改めて感じました。

観察するだけでは伝わらない生きものの魅力

中編で取り上げたヒメイカの飼育も印象的でした。

ヒメイカは全長3センチにも満たない、世界でもっとも小さなイカのひとつです。アマモ場などに生息する、とても可愛らしい生き物です。

あんまり小さいから寿司ネタにもできません。

名古屋港水族館がアップロードしている公式動画では“ヒメイカ寿司”を一貫つくるのに50匹を必要としていました。

しかし、可愛らしいヒメイカ“が”食べる風景は意外にもワイルドです。

獲物を捕まえると消化液を注入し、中身を溶かして吸い取る「体外消化」を行います。小さく可憐な見た目からは想像もできません。ヒメイカが小さくてよかった………!

『水族館つくろう物語』より(提供:ふくのうみ)

取材をするたびに、「見た目だけではわからない生き物の世界」があることを教えられました。そして、その魅力をどう漫画で伝えるかを考えるのもまた楽しい作業でした。

名古屋港水族館を支えていた「アクアフレンド」

南館の開館当初には、「アクアフレンド」と呼ばれるアテンダントの皆さんがいました。

私は取材をするまでその存在を知らなかったのですが、館内ガイドやショーの司会などを担当し、お客様と海の生き物たちをつなぐ大切な役割を担っていたそうです。

『水族館つくろう物語』より(提供:ふくのうみ)

そのため、生き物や展示内容についても専門的な知識が求められ、日々勉強を重ねていたと伺いました。取材時に写真も拝見しましたが、制服がとても上品で素敵でした。

水族館を題材にした漫画で、アテンダントさんたちを取り上げる機会はあまり多くないのではないでしょうか。水族館というと飼育係に目が向きがちですが、こうしたアテンダントの皆さんもまた、水族館の魅力を支えていたのだと思います。

取材では仕事のお話だけでなく、当時の人間関係や職員さん同士の微笑ましいエピソードなども伺うことができました。開館に向けてみんなで力を合わせていたからこそ生まれた絆もあったのでしょう。ページ数の都合で描ききれなかったエピソードも多く、個人的にはもっと掘り下げてみたかった題材のひとつです。

水族館の設備はほぼ「ダンジョン」!?

絵にするときに最も頭を悩ませたのは設備担当の方のお話です。

水族館の裏側には、来館者の目に触れない巨大な設備が広がっています。

水槽の裏には無数の配管が張り巡らされ、海水を循環させるための機械が並びます。初めて見たときは、まるで巨大な地下ダンジョンのようでした(大昔のパソコンのスクリーンセイバーの映像のようです)。

『水族館つくろう物語』より(提供:ふくのうみ)

実際に案内していただきながら見学したのですが、案内なしでは私はダンジョンの中で白骨となったでしょう。「これは漫画でどう表現したらいいのだろう」と途方に暮れました。

設備担当の方々は、どの配管がどの水槽につながっているのかを把握しながら日々管理しています。私には迷路にしか見えない空間が、彼らにとっては仕事場なのです。

水族館の主役は生き物たちですが、その生き物たちが健康に暮らせる環境を支えているのは設備でもあります。

華やかな展示の裏側にある、見えない努力の積み重ね。その存在を知ることができたのも、この取材の大きな収穫でした。

水族館に遍在するさまざまな物語

この漫画を描くまで、私にとって水族館は「生き物を見る場所」でした。

しかし今は少し違います。水槽の中の生き物たちだけでなく、その環境を支える人たちのことも想像するようになりました。

バーチャル映像やデジタルコンテンツがあふれる現代だからこそ、本物の命を自分の目で見られる場所の価値は、これからますます大きくなっていくと思います。

その場所を支える人たちの情熱に触れ、その物語を漫画として残す機会をいただけたことを、とても光栄に思っています。

『水族館つくろう物語』より(提供:ふくのうみ)

「水族館つくろう物語」全3巻は、名古屋港水族館のショップで販売中です。また、現在はオンラインストアで前編と中編が購入できるので、ぜひ覗いてみてくださいね。


ふくのうみ●船とペンギンが大好きな漫画家・イラストレーター。紙ものデザインも手がける。

南極観測船「ふじ」とペンギンが出会う漫画をSNSで発表したことをきっかけに、漫画家として活動を開始。代表作に『ふじと南極のなかまたち』(KADOKAWA、2022)がある。また、名古屋港水族館監修の同人誌『水族館つくろう物語』を制作。歴史・船・生きものをテーマに作品を発表している。2026年はコミックマーケットに出展予定。

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