必須脂肪酸の1種であるエイコサペンタエン酸(EPA)は、脳や神経系の発達に関わり、動物の生存や繁殖に欠かせない存在です。
EPAは主に珪藻や藻類により作り出されており、近年の研究では、水生昆虫によってEPAが陸上へ運ばれ、陸上動物へ栄養を供給しているこが明らかになりつつあります。
しかし、<水域→陸上>のEPA供給が研究される一方、<陸上→水域>のEPA輸送の重要性はほとんど検証されていませんでした。
そうした中で、京都大学生態学研究センターの目戸綾乃研究員(研究当時、現北海道大学大学院地球環境科学研究院助教)らの研究グループは、ハリガネムシに寄生されたカマドウマによって、陸上から水域へとEPAが輸送されていることを明らかにしました。
動物の重要な栄養素「EPA」
必須脂肪酸の1種のエイコサペンタエン酸(EPA)は、動物にとって非常に重要な栄養素です。
しかし、EPAは主に珪藻や一部の藻類など、水域の一次生産者によって作られており、陸上でEPAを作ることができる生物はほとんど知られていません。そのため、人間もEPAの多くを食事やサプリメントから摂取しています。
陸上と水域間のEPA輸送
また近年の研究では、藻類を食べる水生昆虫によってEPAが水域から陸上へ輸送し、陸上動物へ栄養を供給することが分かりつつあるようです。
こうした水域から陸上へのEPA輸送について検証が進められる一方、陸上から水域へのEPA輸送の重要性はほとんど検証されていませんでした。
カマドウマは魚類の重要な餌
温帯の河畔林(かはんりん)では、ハリガネムシに寄生されたカマドウマが行動操作により、河川へ飛び込まされ魚類の餌になることが知られています。
カマドウマ(提供:PhotoAC)このカマドウマは羽化した水生昆虫を食べることで、ハリガネムシに感染。魚類にとってカマドウマは重要なエネルギー源であり、先行研究によるとイワナでは年間エネルギー量の約60%をカマドウマが占めているようです。
このことから、研究グループはカマドウマがEPAを蓄積し、その後、河川に飛び込むことで、陸上から魚類へのEPA輸送が生じていると仮説を立てました。
カマドウマによる栄養素フロー
研究では、世界各地の温帯河川で観測された水生昆虫のEPA含有量を統合し、カマドウマに含まれるEPA量との比較を実施。これらのデータに基づきイワナが水生昆虫とカマドウマ、それぞれから摂取したEPAの量を推定が行われました。
ハリガネムシ(提供:PhotoAC)その結果、カマドウマ1匹に含まれるEPAの量は、水生昆虫の約4~17倍であることが判明。さらに、イワナは8月になると水生昆虫と比較して1.6~2.1倍、10月では24.3~60.9倍多くEPAをカマドウマから摂取していると推定されています。
このことから、ハリガネムシの感染により河川に飛び込むカマドウマはエネルギーフローだけでなく、EPAといった栄養素のフローも生み出していることが示されたのです。
どこからどのくらいEPAを摂取しているのか
今回の研究によって、ハリガネムシに感染したカマドウマが、陸上から水域へのEPAフローを生み出していることが示されました。
一方、近年は体内でEPAを合成する土壌動物も知られているようです。そのため、カマドウマが土壌動物からEPAを得ている可能性や、自身でEPAを合成している可能性も捨てきれないとのこと。
研究グループは今後、カマドウマがどこからどのくらいEPAを摂取しているのか明らかにすることで、栄養素フローへの理解が深まるとしています。
この研究成果は「PNAS Nexus」に掲載されています(論文タイトル:Nematomorph parasites potentially drive nutritional flow from terrestrial to aquatic ecosystems)。
(サカナト編集部)