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カジキは「吻」で魚を突き刺すのか? 高速撮影された捕食シーンから判明したこととは

「カジキ」と聞いて思い浮かべるのは、槍のように伸びた長い「吻(ふん)」ではないでしょうか。

ではこの吻を実際にどう使っているのか、みなさんは想像できますか?

インターネット上で、カジキが吻で魚を突き刺している絵を見かけたことから、本当にそんな使い方をしているのだろうかと疑問に思い、調べてみました。

カジキは吻で魚を突き刺すのか?(提供:Polo the Rat)

バショウカジキの捕食行動

近年は高速カメラによって、野外での捕食行動が詳しく記録されるようになり、イメージとは少し違う吻の使い方が明らかになってきました。

メキシコ沖でイワシの群れを追うバショウカジキが、研究者によって高速撮影されたのです。

バショウカジキは、まず吻を魚群の中へ静かに滑り込ませます。急激な動きがないため、イワシはすぐには逃げません。

その後、吻で一匹を軽くたたく「タッピング」や、吻を左右に振って魚群をすばやくなぎ払う「スラッシング」を行います。

この左右の動きは、水生脊椎動物で記録された中で最高レベルの加速度だそう。

こうして負傷して動きが鈍った魚を、バショウカジキは捕食します。

吻は魚を傷つけるための構造

吻の表面には、肉眼では目立たない微小な歯が並んでいます。これは、吻を振ったときに獲物の体表を傷つけたり、接触した魚を逃げにくくしたりする働きがあるといわれています。

つまり吻は、獲物を直接捕まえる道具というより、まず相手を弱らせる「前処理」を担い、そのあとの捕食を助ける器官といえるでしょう。

すべてのカジキが同じように使うわけではない

吻の使い方は、カジキの種類によっても異なります。

バショウカジキは、魚群の速度に合わせて接近し、吻を正確に滑り込ませて狙った個体を攻撃します。

一方、マカジキは魚群へ高速で突進する行動が多く、バショウカジキほど精密に吻を振るわけではないようです。クロカジキについても、吻の微小歯の形態から、高速突進型の捕食をおこなう可能性が指摘されています。

吻の形や表面の微小歯の違いは、こうした捕食戦略と対応しているようです。ただ、野外での観察例がまだ十分ではなく、今後の研究で明らかになることを楽しみにしています。

水の抵抗を減らす器官ではないのか

「吻は高速遊泳のために、水の抵抗を減らす器官なのでは?」と考える方もいるかもしれません。

しかし、カジキ標本を使った風洞実験から、巡航速度において吻が体全体の抵抗を下げるということではありませんでした。ただしメカジキについては、吻から分泌される油が局所的な摩擦抵抗を減らす可能性も提案されており、吻の役割は捕食だけではないのかもしれません。

私が水産学生だった頃、調査航海に出た先輩からカジキの吻をもらったことがあります。表面は紙やすりのようにザラザラしていて、乾燥させても油がじんわりと滲み出てくるため、標本づくりには苦労しました。

今回調べてみて、当時抱いていたいくつかの疑問が解消されて、すっきりした気分です。

(サカナトライター:Polo the Rat)

参考文献・参考URL

Domenici et al. (2014), How sailfish use their bills to capture schooling prey. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 281(1784), 20140444.

Hansen et al. (2020), Linking hunting weaponry to attack strategies in sailfish and striped marlin. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 287(1918), 20192228.

Pacher et al. (2024), The rostral micro-tooth morphology of blue marlin. Journal of Fish Biology, 104(3), 713–722.

Sagong et al. (2013), Hydrodynamic Characteristics of the Sailfish (Istiophorus platypterus) and Swordfish (Xiphias gladius) in Gliding Postures at Their Cruise Speeds. PLoS One, 8(12), e81323.

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