ソトオリイワシは日本を含む三大洋の深海に生息する魚です。底曳網で多く漁獲されており、産地によっては食用とされています。
一般家庭の食卓に出回ることはなかなかありませんが、近年は深海魚を食用とする試みが日本各地であり、従来よりも入手しやすくなりました。
今回はソトオリイワシを食した感想についてレポートします。
ソトオリイワシとは
ソトオリイワシNeoscopelus macrolepidotus Johnson, 1863は深海魚の一種で、水深300メートルより深い海底から底曳網で漁獲されています。
本種は体側背部が赤みをおび、腹部には発光器の列があるのが特徴。分布域は北海道~土佐湾までの太平洋岸、西太平洋、南太平洋、ハワイ諸島、西インド洋のほか、大西洋の暖海域からも採集されています。
ソトオリイワシの含まれるグループ

ソトオリイワシは名前に「イワシ」とありますが、マイワシやカタクチイワシ、ウルメイワシなどが含まれるニシン目の魚ではありません。ハダカイワシ目ソトオリイワシ科ソトオリイワシ属の魚になります。
ソトオリイワシ科の識別方法 発光器の配列が違う
ソトオリイワシ科の魚は、日本からはソトオリイワシ属とクロゴイワシ属の2属4種が知られています。
このうち、クロゴイワシ属のクロゴイワシは全身が黒く体側に発光器がないので、他の日本産ソトオリイワシ科魚類と識別できます。
発光器は、光を発するために備えている器官のこと。発光器を有するソトオリイワシなどでは、魚体を観察していると丸い斑点のようなものが確認できます。

ソトオリイワシ属の3種は、発光器の配列で見分けることができます。
発光器の配列で同定する魚といえば、ハダカイワシ科の魚が有名で、この仲間の同定は難儀するのですが、ソトオリイワシ属の同定は比較的容易です(もっとも種数が大きく違いますが)。
ソトオリイワシとサンゴイワシでは腹鰭の後方にある発光器が体側発光器に1列、腹部発光器に1列の計2列であり、ソトオリイワシは体側発光器が臀鰭起部(でんききぶ・しりビレが体幹部から起始する部位)直上より後方に達しないですが、サンゴイワシでは臀鰭起部直上に達することで見分けられます。
また、日本産のソトオリイワシのもう1種であるシチゴイワシは、臀鰭起部直上まで2列の体側発光器と1列の腹部の発光器、計3列の発光器が並ぶことで前2者と容易に識別できます。
発光器を持つよく似た魚
ソトオリイワシのように腹部に発光器の列を持つ魚としては、ワニトカゲギス目の魚もよく知られています。

そのなかでも、ギンハダカ科のギンハダカなどの魚はソトオリイワシによく似ているように思います。
しかしながらこの仲間はソトオリイワシ属の魚のように背中が赤みをおびることはなく、より体が長いこと、口がより大きく開くことなどの違いで見分けられるでしょう。
我が家にソトオリイワシがやって来た
さて、我が家にソトオリイワシがやってきました。
三重県尾鷲市で漁獲された個体がひと箱で、10個体ほど。しかも、そのソトオリイワシはかなり大きいもので、20センチくらいありそうなものでした。
やってきたソトオリイワシたちはまず簡易的な鰭たてをして撮影した後、じっくり観察しました。

そのなかで特に印象的だったのはえら蓋。えら蓋は銀色なのですが、いちぶ暗色に近いところがあり、その部分は光の当たり方によってモルフォチョウの構造色ような青い輝きを見せています。
この魚が普段すんでいる、ほとんど光の届かない深海の環境ではどのように見えるのか、興味深いところです。
まるでアンコウの仲間のように見える個体も 正体は寄生生物
今回入手したソトオリイワシの中に、1匹だけとても面白い個体が入っていました。頭部、眼の前に長いものがついており、まるでアンコウの仲間のようにも見えます。

この正体は寄生生物で甲殻類の一種、寄生性のカイアシ類です。

カイアシ類は「コペポーダ」とも呼ばれ、生物資源や養殖、アクアリウムの世界で小魚や幼魚の餌としてよく知られていますが、そのなかには魚などに寄生するものもいます。その形態や寄生宿主の魚種についてもさまざまなようで、アカハタやトラギスなど、釣りでお馴染みの魚にもよくついています。
ソトオリイワシの食べ方
ソトオリイワシはハダカイワシと同様に、全長15センチをこえるくらいの大きさに育つため、静岡県戸田や三重県などの産地では、近縁のサンゴイワシとともにたまに流通することがあります。

この時に入手したソトオリイワシは大きい個体だったので、三枚におろして一夜干しにしてから焼いて食べました。身に脂がしっかりのっており、かなり美味しいものでした。
その後、2022年には沼津市戸田で獲れた深海魚を販売する「ヘンテコ深海魚便」を購入すると、その中には同科のサンゴイワシが入っていたのでそれも食べてみました。

このときはサンゴイワシの内臓、鱗を取りのぞき、それに唐揚げ粉をつけて揚げるというもので、シンプルですがとても美味しく、骨や鰭についても食べることができます。
底曳網漁業の2024~2025年シーズンはもう終盤になってしまいましたが、美味しい魚ですので、ぜひ食べてみてほしい魚のひとつです。
(サカナトライター:椎名まさと)
文献
中坊徹次(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会.
上野輝彌・松浦啓一・藤井英一編(1983)、スリナム・ギアナ沖の魚類、海洋水産資源開発センター、519pp.