昆虫類は飛翔することによって、分散し分布の拡大や個体群を維持しています。そのため、昆虫の保全では分散能力の理解が必要不可欠です。
水田環境に生息するゲンゴロウ類は通常、飛翔により分散することが知られていますが、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定されているマルコガタノゲンゴロウについては、生息地の利用実態や分散能力が詳しくわかっていませんでした。
こうした中で、長崎大学大学院総合生産科学研究科の福岡太一氏らの研究グループは、マルコガタノゲンゴロウの分散能力と生息地の利用実態を明らかにしました。
この研究成果は『Journal of Insect Conservation』に掲載されています(論文タイトル:Are restricted habitat use and extremely low dispersal ability drivers of the decline of the endangered diving beetle Cybister lewisianus?)。
昆虫類の保全では分散能力の把握が重要
昆虫類の多くは飛翔能力をもっており、これが分布の拡大や個体群の維持に重要な役割を担っています。
昆虫類の保全では、対象となる種の分散能力を理解することが非常に重要です。
水田環境に生息するゲンゴロウ
水田環境に生息するゲンゴロウ類は水生昆虫を代表するグループの1つ。ゲンゴロウ類も一般的には飛翔により分散し、中には非常に長い距離を飛翔する種も知られています。
ゲンゴロウ類(提供:PhotoAC)ゲンゴロウ類は春になると、ため池から水田へ移動し、水田に水が無くなる晩夏に水田からため池に移動するため、生活サイクルの完結に高い分散能力が必要とされているのです。
絶滅危惧種「マルコガタノゲンゴロウ」
ゲンゴロウ類の中でも稀少とされるマルコガタノゲンゴロウは環境省版レッドリストで絶滅危惧IA類、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定されている絶滅危惧種。本種の生息地は主にため池とされているものの、生息地の利用実態や分散能力については十分に解明されていなかったといいます。
今回の研究では、マルコガタノゲンゴロウの減少要因の特定および保全の提言ため、生息地利用の実態と飛翔行動、分散に関連した形質の調査が行われました。
ゲンゴロウ類2種を調査
調査の対象になった種はマルコガタノゲンゴロウに加えて、同所的に見られたコガタノゲンゴロウの2種。
調査地は熊本県のため池A、Bとその周辺の最も近い水田で、5月~10月の各水域における両種の個体数を記録。また飛翔行動の実験では、実験室で4月~10月の期間に月1回、陸地に置き1時間以内に飛ぶかどうか記録が行われました。
分散能力に関する形態として、体長、体幅、後脚長、前肢長、後翅長、後翅面積の計測が行われています。
飛翔行動と形態的特徴に有意な差を確認
調査の結果、マルコガタノゲンゴロウはため池Aのみで出現し幼虫も確認されたとのこと。一方、コガタノゲンゴロウは、初夏に水田で成虫と幼虫が出現し、秋には、ため池A、Bの両方で成虫の出現が確認されています。
飛翔行動は、マルコガタノゲンゴロウがどの月でも飛ばなかったのに対し、コガタノゲンゴロウは10月を除くすべての月で飛翔したようです。
また、分散に関する形態的特徴では、マルコガタノゲンゴロウはコガタノゲンゴロウよりも翅が小さいこと、後脚が長いことが明らかになっています。
限られたため池で生活サイクルを完結
このような結果から、マルコガタノゲンゴロウは限られたため池で生活サイクルを完結することが判明したほか、繁殖地として水田を利用しないと考えられています。
さらに、形態的特徴からマルコガタノゲンゴロウがコガタノゲンゴロウと比較して分散に関する形質が小さいことも、新たに明らかになった生息地利用の実態を支持するものとなりました。
ゲンゴロウ類(提供:PhotoAC)マルコガタノゲンゴロウは分散能力が低いことから、外来種の移入や環境の悪化に弱いとされています。こうした理由が、本種の個体数減少の要因である可能性が示唆されたのです。
また、新たな生息地を作っても飛来する可能性が低いことから、域外保全で増やした個体を導入することが有効的な保全と考えられています。
マルコガタノゲンゴロウは環境変化に脆弱
今回の研究によって、マルコガタノゲンゴロウは限られたため池で生活サイクルを完結させること、分散能力が低いことが明らかになりました。こうした特性は本種の個体数が減少している要因の1つと考えられています。
また、マルコガタノゲンゴロウは実験とは別の水槽では飛ぶ様子が確認されたとのこと。研究グループは今後、地域個体群の違いなども含め更なる調査が必要としています。
(サカナト編集部)