ホンダワラやアカモクなどの海藻が切れたり剥がれるなどして流れ出し、沖合を漂います。これを「流れ藻」といいます。
この流れ藻は、卵から産まれたばかりの海をただよう仔魚や稚魚にとっては沖合に浮かぶ数少ない隠れ家で、多数の魚が見られます。今回はこの流れ藻につく魚についてご紹介します。
沖合を漂う「流れ藻」
流れ藻は沿岸に生えているアカモクやホンダワラなど、主にホンダワラ科の海藻が春になると枯れたりどこかの部位から切れるなどして流れだし、沖合を漂っている状態のものをいいます。
この流れ藻は沖合を漂い、卵から産まれたばかりの、外洋を泳ぐ小魚たちにとっては絶好の隠れ家となります。
しかしながらこの流れ藻にも、捕食者がおり、また外洋性の大型魚も餌が多いとして流れ藻の周辺にやって来るため、小魚たちにとっては「絶対安全」といえるすみかではないようです。
流れ藻の消失
そのような小さい魚のよりどころである流れ藻ですが、流れ藻の浮遊期間(俗に寿命と呼ぶ)が1~数か月間と、恒久的な隠れ家とはなりません。ですからその間に成長し流れ藻を離れる必要があります。
一方、流れ藻で成魚が見られるハナオコゼについては「流れ藻の寿命が短いことからか、本種の寿命も短いものと考えられる(小枝圭太ほか|2020)」とされ、流れ藻が消失する際にはハナオコゼも運命を共にするようです。
筆者は宇和海で採集されたヤシャカマスを解剖したところ、胃の中からハナオコゼやニジギンポが出てきたということがありました。これはヤシャカマスが流れ藻につく魚を襲った可能性もありますが、流れ藻が無くなって中層を漂っていたところを襲われた可能性もありそうです。
流れ藻につく魚は非常に多く、ここでは代表的なものを紹介するにとどめます。
流れ藻につく代表的な魚たち
ハナオコゼ(アンコウ目カエルアンコウ科)
ハナオコゼ(学名>Histrio histrio)は標準和名に「オコゼ」とありますが、アンコウ目カエルアンコウ科ハナオコゼ属の魚で、海底をはっていることが多いカエルアンコウ科魚類としてはめずらしく流れ藻についている魚です。英語名”Sargassumfish”も「ホンダワラの魚」の意です。
種の標準和名カエルアンコウの皮膚は小棘に覆われていることが多く、手触りはざらざらしているのですが、このハナオコゼではそのようなものがなく、小瘤で覆われています。
一般的に流れ藻に見られる魚は稚魚の弱い時期を流れ藻で過ごす魚が多いのですが、このハナオコゼは逆で、稚魚は海底で見られ、筆者は水深1メートルもない潮だまりでも採集したことがあります。
また、成魚は流れ藻のほか沿岸部に係留されているイカダやブイなどについていることもあります。観賞魚として飼育されていることもあるハナオコゼですが、ほかの魚を食べてしまい、自分と同じくらいの魚も食するため(実際に共食いしている様子を観察している)、単独飼育するしかありません。
トビウオの仲間(ダツ目トビウオ科)
トビウオ科魚類の幼魚も流れ藻についていることがあります。ツクシトビウオの稚魚などは比較的よく見られるようですが、同定が難しい種も多くいます。
トビウオ科の魚は卵に強い「付着糸」がついており、流れ藻や浮遊物に絡みつくという特徴の卵を産みます。トビウオと同じダツ目のサンマも似たような性質の卵を産みます。