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奇っ怪な見た目の深海魚<ソコダラ>の仲間たちを美味しく食べてみよう!【いいさかなの日】

11月3日~7日は水産物の消費拡大に向けた活動の強化週間として水産庁が定めた「いいさかなの日」。『サカナト』を運営するSAKANA BOOKSは「さかなの日」賛同メンバーに参画しています。そこで、サカナトライターの皆さんに“魚食”にまつわるエピソードを綴っていただきました。

ソコダラ科の魚は世界中の深海に生息するタラ目のいちグループです。

異質な形をしているからか、一般的なタラ科の魚やチゴダラ科の魚と比べるとあまり食用としてはメジャーなものではなく、深海釣りで釣れてもあまりよい扱いをされていません。

しかし、実際にはとても美味しい魚です。代表的なソコダラ科の種である「イバラヒゲ」を刺身で食した話をメインに、ソコダラ科魚類の食べ方についてご紹介します。

ソコダラの仲間たち

駿河湾石花海のトウジン(撮影:椎名まさと)

ソコダラの仲間(ソコダラ科)は側棘鰭上目・タラ目のいち分類群であり、タラ目では最大の科で、400近い種が全世界の深海(極地周辺の海域を含む)に生息しています。

その特徴は尾部が非常に長く伸びることで、英語では「Rattail(ネズミの尾)」とよばれたりしますし、またネズミダラ属については標準和名はもちろんのこと、属学名Nezumiaも「ネズミ」を意味します。

なお、単に「ソコダラ」といった場合は、種標準和名「ソコダラ」を指す場合もありますので注意が必要です。もっとも、このソコダラは相模湾から完模式標本が得られ1970年に新種記載されて以降、いちども報告がない希少な種です。

タラ目魚類の体形(撮影:椎名まさと)

細長い尾部をもっているソコダラの仲間は、同じタラ目のタラ科やチゴダラ科と見た目が大きく異なっているためか、食用魚としては、静岡県沼津市戸田などの産地ではともかく、全国的にはマイナーといえます。

深海性のメバル科魚類である「メヌケ」などを狙う深海釣りにおいて、ゲストとして釣れてくることもあるのですが、その評価は高くなく、カモメなどの餌にするなんていう人もいるほど。

しかし、ソコダラ科の魚も美味しい魚ですので、ぜひとも食べてみてほしいと思います。

美味しい2大グループ

ソコダラ科の魚は多くの種が知られるものの、小型種はほとんど食用にはなっていないか、利用されても「練製品原料」となる程度です。

一般的に食用になるのは、全長で50センチを超えるような中~大型種が中心です。そうなると、日本産のソコダラ科魚類で食用になるのは、およそこの2属といえそうです。

トウジン属

神奈川県城ヶ島沖で釣ったトウジン(撮影:椎名まさと)

一般的にソコダラ科の代表選手的なポジションにいるのがトウジンCoelorinchus japonicus(Temminck and Schlegel, 1846)です。これは水深300メートルほどの深海でメヌケを狙っていると、ゲストで釣れてくることが多いものです。

本種が含まれるトウジン属は種が豊富で120を超える種が三大洋の熱帯から温帯にかけて分布しており、日本にも20種以上が知られています。

日本近海のトウジン属魚類の生息水深は概ね1000メートル以浅であり、深海釣りや底曳網漁業従事者を頼ることにより、入手するチャンスも多いといえます。

ただし一般向けに食用として水揚げされるものは限られており、トウジンやミヤコヒゲ、オニヒゲ、テナガダラなどの大型種が主で、ほかは練製品の原料とされる程度です。

基本的にトウジン属の魚はほとんど太平洋側にのみ見られ、日本海側ではヤリヒゲなどが見られる程度です(トウジンやテナガダラの記録もあるが少ないという)。

ホカケダラ属

イバラヒゲ(撮影:椎名まさと)

ホカケダラ属はほぼ世界中の深海から60以上の種が知られており、日本からも14種ほどが知られています。

生息水深がかなり深いものも多く、中にはシンカイヨロイダラのように水深2500~6945メートルほどの深さに生息するものもいますが、そのような種は漁獲する方法がありません。

この属で私たちが食用として入手できるのは、静岡県沼津市戸田などでも水揚げされるヘリダラ(990メートル以浅にすむ)、相模湾以北に多く底曳網で多量に獲れるムネダラ、カラフトソコダラ、イバラヒゲなどに限られてしまいます。ホカケダラ属のなかにも、属の標準和名の由来となったホカケダラのように、やはり完模式標本が採集されて以降、一度も報告がない稀少な種もいます。

代表的な種であるイバラヒゲCoryphaenoides acrolepis(Bean,1884)は全長70センチほどになります。土佐湾以北の北太平洋(オホーツク海、ベーリング海を含む)の深海、水深300~3700メートルの広い範囲に生息する普通種で、深海潜水艇が撮影した映像のなかによく出てくる魚の一種でもあります。

ソコダラの仲間を食する

筆者は、これまでにも10数種のソコダラ科魚類を食してきました。同じソコダラ科の魚でも、種により味が若干ことなることもあり、面白いところがあります。

2017年にホカケダラ属のイバラヒゲを入手する機会がありました。

イバラヒゲは土佐湾にもいるとされますが、相模湾以北に多い北方性のソコダラ科魚類であり、北日本太平洋側(北海道や三陸沖など)で行われる底曳網漁業に縁のない筆者にとってはなかなか入手できていない魚でした。

このとき手に入ったのは相模湾の産で、底曳網漁業ではなく、釣りまたは延縄で漁獲されたものです。

イバラヒゲの刺身

イバラヒゲの刺身(撮影:椎名まさと)

イバラヒゲは全身真っ黒な深海魚ですが、身は不思議なほど真っ白で、皮に近い部分にうっすらと赤みがあります。

脂がよく乗り美味で、刺身醤油よりはポン酢が合うように思います。一部の種で感じられる、独特の臭みはありません。

イバラヒゲの肝臓

イバラヒゲの肝臓(撮影:椎名まさと)

タラの仲間の肝臓は脂肪に富むだけでなく、ビタミンAやビタミンDを豊富に含んでおり、古くから肝油の原料とされてきた歴史があります。

ソコダラ科の魚の肝臓については不明ですが、実際に肝臓をゆでてみたところ脂もあり、これだけでも美味しいものでした。醤油やポン酢に混ぜてもよいでしょう。

イバラヒゲの肝臓を茹でたあとよく叩いたもの。これだけでも美味(撮影:椎名まさと)

ただこの部分については種によってだいぶ味も変わってくるようです。カニみその味がしたという種もあれば、カニの身のような味がしたなんて種もいます。

イバラヒゲの胃と生殖巣

イバラヒゲの胃(撮影:椎名まさと)

マダラについては胃などを使った郷土料理が知られています。イバラヒゲについてはそのような胃を使った料理は聞かないですが、マダラ同様に食用にすることができます。

イバラヒゲの胃と精巣(撮影:椎名まさと)

イバラヒゲの胃をよく洗ったあと茹で、調理用のハサミまたは包丁で切ります。

ポン酢などで食べるもので、味や食感は博多名物の「ゆずもつ」を彷彿とさせます。その下に見える白いものは精巣(いわゆる白子)でこれもポン酢で食べます。

トウジン属の卵巣(撮影:椎名まさと)

また、今回は雄なので食することはできませんでしたが、ソコダラ科のほかの種において、雌の持つ卵巣も食用にできました。

タラ目の魚は卵巣も利用される種が多く、スケトウダラの卵巣は「たらこ」または「めんたいこ」、マダラの子は「まだらこ」または「マダラ真子」として私たちにもお馴染みです。

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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