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学術上“存在しない魚”だった<希少淡水魚・ムサシトミヨ> 60年越しに新種記載される

埼玉県に生息し、「県の魚」「市の魚」として親しまれてきた希少淡水魚・ムサシトミヨが、新種Pungitius nakamurai(プンギティウス・ナカムラアイ)として国際的に正式記載されました。

60年以上にわたり図鑑などでは広く知られながらも、学術的には“存在しない魚”と見なされてきたムサシトミヨ。

鹿児島大学総合研究博物館と国立科学博物館を中心とする研究チームが、鹿児島大学総合研究博物館などが所有する標本やさいたま水族館で飼育展示されている生体に基づく詳細な分類学的検討を行った結果、 ついに世界の学術界で正式な種として認められました。

本論文は2026年4月29日、Ichthyological Research (Online First)に掲載されました(論文タイトル:A new species of ninespine stickleback,Pungitius nakamurai (Gasterosteiformes, Gasterosteidae),endemic to Honshu Island, Japan

60年越し!明らかになった“存在しない魚”の正体

ムサシトミヨは、トゲウオ目トゲウオ科トミヨ属に分類される淡水魚で、体長3.5〜6センチほどの小型種です。

水温10〜18度の清冽な湧き水と、水草が茂る細い川を好み、背ビレ・腹ビレ・尻ビレに備えたトゲを立てて外敵から身を守るといった特徴を持ちます。

寿命は約1年と短く、環境変化の影響を受けやすい、生態的にも繊細な魚です。

生時のムサシトミヨPungitius nakamurai(Paratype、標準体長40.2 mm:さいたま水族館より寄贈)

かつてムサシトミヨは関東地方一帯に広く分布していましたが、現在は埼玉県のごく限られた湧水環境にのみ自然分布が確認されており、野生下での絶滅が危惧される状況にあります。

一方で、埼玉県の「県の魚」、熊谷市の「市の魚」として指定されるなど、地域では親しみ深い存在となってきました。

図鑑などにも掲載されているにもかかわらず、これまで国際的な魚類分類学の枠組みでは正式な種として扱われず、「学術上は存在しない魚」とされてきたという経緯があります。

累代飼育と保全に取り組んできた<さいたま水族館>

今回、鹿児島大学総合研究博物館や国立科学博物館などが所蔵する標本に加え、ムサシトミヨの累代飼育と保全に取り組む羽生水郷公園さいたま水族館から提供された生きた個体の情報を総合的に解析することで、新種Pungitius nakamuraiとしての記載が実現しました。

トミヨ属では種や集団同士の交雑が起こりやすく、長年にわたり分類体系が混乱していたことが、ムサシトミヨの記載が半世紀以上遅れた要因の一つとされています。

近年進んだ同属の分類研究によって他種との違いが明確化されたことが、今回の新種記載を後押ししました。

地域の保全活動が支えた“埼玉の小さなシンボル”

新種としての正式記載により、ムサシトミヨは保護政策の対象種として位置づけやすくなり、法的・行政的な保全措置の検討や強化が期待されています。

地域住民による草の根の保全活動がムサシトミヨの命脈を現在までつないできた側面も大きく、研究チームは今回の成果を「地元の方々の想いや取り組みが実を結んだもの」と位置付けています。

羽生水郷公園(提供:PhotoAC)

小さな淡水魚の新種認定は、地域と研究機関が連携して生物多様性を守る重要性を改めて示す象徴的なケースといえます。

新種記載に用いられたタイプ標本は、国立科学博物館、東京大学総合研究博物館、鹿児島大学総合研究博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館、群馬県立自然史博物館など、複数の機関に収蔵されています。

(サカナト編集部)

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