海を漂い生活する変わった巻貝の仲間「浮遊性巻貝」。このグループにはアオミノウミウシやクリイロカメガイ、ゾウクラゲの仲間が知られています。
浮遊性巻貝は、これまで分類学や生物地理学といった研究が多く知られる一方、生態系における彼らの役割は謎に包まれていました。
そうした中で、東邦大学、黒潮生物研究所、新江ノ島水族館などの研究グループは、浮遊性巻貝から吸虫の幼虫を見出し、これらを指標に浮遊性巻貝と魚類の捕食と被食の関係を調査しました。
この研究成果は『Journal of Helminthology』に掲載されています(論文タイトル:Insights into the life cycles of trematodes infecting pelagic gastropods in Japan)。
浮遊性巻貝の生態系における役割
アオミノウミウシやゾウクラゲの仲間などの浮遊性巻貝は海を漂って生活する巻貝の仲間です。
浮遊性巻貝については分類や生物地理といった分野では研究が進んでいる一方、彼らの生態系における役割は謎に包まれており、浮遊性巻貝を捕食する動物もわかっていませんでした。
ゾウクラゲの仲間(提供:PhotoAC)そうした中で、研究グループは様々な動物に寄生する吸虫に着目。浮遊性巻貝と魚類における捕食ー被食の関係を推定しました。
吸虫をバイオタグに
吸虫は扁形動物に属する寄生虫のグループで、幼虫はクラゲ類など様々な動物に寄生されることが知られています。
そんな彼らの終宿主は海産魚などの脊椎動物であり、産卵した卵は終宿主の糞と一緒に外へ放出されます。
やがて卵は貝類(第一宿中間主)に感染し、その体内でスポロシストやレジアへと成長。これらからはセルカリアと呼ばれる浮遊性の幼虫が生じます。
セルリカは次の宿主に感染しメタセルカリアへ。メタセルカリアは、この第二中間宿主とともに終宿主に捕食されることで成虫になります。
メタセルカリアと成虫の宿主を調査
第二中間宿主が終宿主以外に捕食された際、メタセルカリアはそのまま生存することもあるようです。
この場合、メタセルカリアを保持した待機宿主が終宿主に捕食されることでメタセルカリアは成虫まで発達することができます。そのため、メタセルカリアは終宿主の主要な餌に感染すると考えられています。
研究グループは、吸虫の成虫とメタセルカリアそれぞれの宿主を調べることで捕食-被食の関係を推定できると考え、2016~2025年に日本近海で採集された浮遊性巻貝に寄生したメタセルカリアと海産魚類に感染した成虫を調査。DNA解析でそれらが同種かどうか検討しました。
浮遊性巻貝は魚の餌になっている?
10種415個体もの浮遊性巻貝を調べた結果、シリキレヒメゾウクラゲ、ハダカゾウクラゲ、アオミノウミウシ、クリイロカメガイの4種7個体から、合計139虫体のメタセルカリアが発見されています。これらは形態観察とDNA解析から7種が見出されました。
一方、海産魚類からは、マサバ、ゴマサバ、イッセンタカサゴ、タカベ、先行研究で調査された寄生状況からシイラからこれらの成虫が出ていることが分かっています。
タカベ(提供:PhotoAC)つまり、これらの魚種が浮遊性巻貝を捕食している可能性が示唆されたのです。また、浮遊性巻貝から得られた吸虫のうち3種は、先行研究でクラゲ類に寄生することが報告されています。
そのため、浮遊性巻貝がクラゲ類を捕食することで、吸虫を体内に蓄積する可能性も示されました。
生態系で重要な役割を持つ可能性
今回の研究によって、浮遊性巻貝から7種139虫体が得られ、このうち5種については、成虫が海産魚類4種から検出されました。
この結果は、海産魚類が浮遊性巻貝を捕食していること、浮遊性巻貝が餌として重要な役割を担っていることを示唆するものです。
今後、浮遊性巻貝と海産魚類に感染する吸虫の生活史を詳しく調べることで、新たな海のつながりを明らかにすることが期待されています。
(サカナト編集部)