サカナをもっと好きになる

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「サカナを見る」から始まる楽しみ

━━━撮影された写真についてうかがっていきたいと思います。

イノウエ:そんなに自信を持って「これが好きだぜ」みたいなものはないんです。あえて挙げると、琵琶湖のハスの写真でしょうか。僕、ハスが好きなんですよ。ハスの写真を撮るために、今でも毎年琵琶湖に通っています。

〈ハスの遡上〉

  • 撮影日:2021年7月
  • 撮影場所:琵琶湖(水深1m程度)
  • 撮影機材:OLYMPUS OM-D E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0

この写真は、琵琶湖流入河川の河口付近で撮ったものなんですけど、これはなんか気に入っています。梅雨時期の日が昇り始めた早朝に撮影したもので、ちょうどその頃がハスたちの産卵の季節なんです。産卵の瞬間が撮りたいというより、産卵のために遡上してきているハスを撮りに行こうかな、という感じでした。

━━━イノウエさんのハスがお好きというのは、どこから来ているんでしょうか。

イノウエ:昔、バス釣りのブームがあったじゃないですか。僕はブームに乗り遅れたんですけど、小学生の頃、友達が「釣りに行こうよ」と誘ってくれて。滋賀県の瀬田川というところに、初めてブラックバスを釣りに行ったんです。

そこでおじさんがブラックバスを釣ってるんですけど、その時にたまたまハスが釣れてたんですよね。図鑑でハスというサカナが琵琶湖にいることは知ってたんで、「あれはハスやなあ」と思って……カッコよかったんです、それが。もうブラックバスそっちのけで、「ハス、いいなあ」と思いました。そこからもう憧れに近いようなサカナになったんです。

━━━元気な様子でこちらを見ているようなカワヨシノボリの写真にも惹きつけられました。

イノウエ:京都市内から車で30分、夏の日の真っ昼間、山間部を流れる川で繰り広げられるカワヨシノボリのオス同士の争いを撮影しました。水中写真を撮り始めた頃の写真で防水コンデジで撮影したものです。

口を大きく開き、ピーンとヒレを張る威嚇行動はいつ見ても感動してしまいます。今ならもう少し上手に撮れるかな?とも思いますが、この一瞬はこの時だけのもので、同じ写真を撮ろうと思っても二度と撮れません。そういう写真を少しずつフォルダーに残していければよいなと思っています。

〈カワヨシノボリの縄張り争い〉

  • 撮影日:2018年7月
  • 撮影場所:淀川水系(京都の川/水深30cm程度)
  • 撮影機材:OLYMPUSSTYLUS TG-4 Toughcイノウエダイスケ

━━━オオサンショウウオの写真は迫力があります。やはり川の中で出会ったのですか。

イノウエ:世界最大の両生類オオサンショウウオは国の特別天然記念物ですが、京都府の河川にも生息しています。 桜の季節にアジメドジョウを撮影しに上流域の川へ入りました。しばらく撮影していると、のそのそと岩の陰から大きな生きものが出てきました。その時に撮影したものです。

オオサンショウウオを撮影する時はだいたいそんな感じで、日中に狙って撮れるようなものでもありません。苔の上を歩く姿もたまたまの偶然に撮れた写真です。それでもこの時の気候や川の様子、空気感までもが気持ち良かったことを覚えています。そのような思い出もあり、自身のホームページ『UNDERWATER』のトップページにも使っている写真です。

〈オオサンショウウオの歩み〉

  • 撮影月:2018年4月
  • 撮影場所:淀川水系(京都の川/水深1m程度)
  • 撮影機材:OLYMPUS OM-D E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO

━━━写真を拝見していると、川潜りでは、カネヒラのような小さなサカナとの出会いも醍醐味だと思いました。
イノウエ:朝晩が少し肌寒く感じる季節になると琵琶湖に向かいます。目的はカネヒラです。タナゴの仲間のカネヒラは秋が産卵期で湖岸では婚姻色に染まった雄や、100匹ほどの群れを作ったカネヒラがネジレモなどの水草の間を泳ぎまわる様子が観察できます。

カネヒラは京都府にもいますが、やっぱり琵琶湖、スケールが全然違います。一日中見ていても飽きることはありません。秋の澄んだ空気が心地良く、水の中も5mmのウェットスーツでちょうど良いです。この季節、琵琶湖は午後になると風が吹き始め、次第に波も立ってくるので撮影は午前中になります。産卵行動もこの時間帯によく観察できました。

写真はカネヒラの小さな群れが産さんらんぼがい卵母貝であるタテボシガイをのぞいているシーンです。見たまんまの水景が撮りたくて自然光で撮影しました。

〈カネヒラの群れ〉

  • 撮影月:2023年9月
  • 撮影場所:琵琶湖(水深50cm程度)
  • 撮影機材:OLYMPUS OM-D E-M1 MarkII + M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro

━━━ホームページを拝見すると、〝pickup〟のところに『週末川時間』という冊子があります。こういったサカナや川の記録をつけていくのも素敵だと思いました。

イノウエ:これは3、4年前に日記的な感じでまとめようかなと思って作ったんです。完全に自己満足で書いているので、ちょっと恥ずかしいんですけど(笑)。川には子どもと行くことが多いので、よく写真にも写り込んでいます。これも、子どもがもっと大きくなった時に、川のことを思い出してくれるかなと。

━━━さらに、〝craft〟や〝design〟を見ると、これもまた素敵なサカナの工作やイラストを楽しんでいるようですね。

イノウエ:素敵かどうかは分からないですけど……サカナをモチーフに何か作ったり描いたりというのは子どもの頃からずっとですね。工作では主にサケ科のサカナを、ペンチで針金を曲げて作っています。針金で作ろうとすると、サケ科が一番何かそれっぽくなるんです。難しいんですけど。だいたい寝る前に1匹作ってるような感じで、今100個くらいはあるかもしれないです。

針金はホームセンターで普通に売られているもので、ちょっと太めの1.6mmです。この太さだと硬くなくて曲げやすいんです。ビワマスなんかがそうなんですけど、自分で撮ったサカナをモチーフに作っているので、それが楽しいのかもしれないです。実際に見たことないカラフトマスとかは、図鑑を見ながら作っています。

━━━最後にイノウエさんにとっての川魚の魅力を聞かせていただけますか。

イノウエ:難しいですね……うーん、川の生きものって替えがないですよね。僕にはサカナのほかに好きなものもありますけど、その川に生きているその生きものって、今そこにしかいないというか。なんかそういうものですね、欠かせないものです。

イノウエさんが手作業で作ったというサカナの針金工作。実物や図鑑を見ながら作るということで、実によく特徴を捉えている。

自宅に飾られた針金工作の数々。さまざまな魚種が見られ、壁一面がさながら魚群が通り過ぎる川中のようにも見えてくる。

本記事は『サカナト Vol.1』に掲載された内容を転載したものです。『サカナト Vol.2』も発売中です。
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サカナト編集部

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