岡山県赤磐市の川でガサガサ（たも網などを使用して水辺の生きものを捕まえること）をしたところ、肉食の魚たちを発見しました。
貪欲に他の魚を捕食するこれらの魚たちが同じ水域で暮らした場合、果たしてどの魚が生き残るのでしょうか？
彼らの生態や生存数から、どのような生存競争が起きるのかを想像してみました。
淡水に生息する貪食な肉食魚
岡山県の河川中流には日本在来種の貪食な肉食魚たちが生息しています。主にナマズ類（マナマズ、ギギなど）やドンコ、オヤニラミ、ウナギなどの魚です。
このうち、水がきれいで支流のような細い河川ではドンコやオヤニラミなどが優勢になり、止水域や池などではナマズ類が優勢になります。
池などではナマズが食物連鎖の頂点となる（提供：PhotoAC）今回ガサガサを行った河川は流れがある場所で、ドンコとオヤニラミの2種が捕れました。
まずはそれぞれの魚の特徴を見ていきましょう。
ずんぐりした愛嬌のある姿＜ドンコ＞
ドンコ（学名：Odontobutis obscura）はスズキ目ドンコ科の魚でずんぐりした愛嬌のある姿をしています。腹ビレが吸盤状になっておらず、少し扁平な頭をしていて、下あごが前に出て口が大きいのが特徴です。
ハゼによく似た姿をしていて、体長は最大で25センチ程度。中国大陸南部、新潟県、愛知県以西、四国、九州に分布していましたが、静岡から南関東へ国内外来種として定着したそうです。
ドンコ（撮影：額田善之）一生を淡水で過ごす魚で、オスは卵を守ります。たまにムギツクに托卵されてしまうそうです。
とても貪食で口も大きく、自分と同じ大きさの魚も食べてしまうので、別の種類の魚を同じ水槽で混泳させることはできません。自然界においても、周辺に生息する魚の幼魚を貪食するので、ドンコが繁殖すると他の魚が減ってしまう恐れがあります。
もともとドンコが生息していなかった静岡県や南関東では、移入したドンコが生態系に大きく影響を与えることが問題になっています。
岡山では「ヨツメ」とも呼ばれる＜オヤニラミ＞
オヤニラミ（学名：Coreoperca kawamebari）はスズキ目ケツギョ科の魚で、スズキを薄っぺらくしたようなスマートな姿をしています。
鰓ぶたには眼状紋（がんじょうもん）があり、まるで目が4つあるように見えるのが最大の特徴です。岡山では「ヨツメ」と呼ばれ、ブルーギルにも似ていますが、オヤニラミの方がスマートで美しい姿をしています。
オヤニラミ（撮影：額田善之）朝鮮半島南部、京都以西の本州、四国北部、九州北部に分布していましたが、近年では東京都や愛知県、滋賀県などで国内外来種として定着したそうです。
最大13センチ程度になり、自分より小さい魚の幼魚やエビなどを貪食するため、国内外来種として定着すると生態系に大きな影響を与えます。
オヤニラミもドンコと同じで、オスが卵の世話を行ない、ムギツクに托卵される場合もあります。「頑張れパパ！」ですね。
ドンコとオヤニラミは共存できるのか？
ドンコもオヤニラミも比較的きれいな川に生息しますが、どちらも貪食なハンター。あまり大きくない支流で共存できるのでしょうか？
今回のガサガサでは、オヤニラミ1匹に対して、ドンコは幼魚も含めて20匹以上を捕獲。つまり、個体数は圧倒的にドンコが優勢です。
同一エリアで捕獲されたドンコとオヤニラミ（撮影：額田善之）しかし、この川は清流ほど貧栄養ではありません。植物相が豊かなため生育環境が抜群によく、ヌマエビや他の淡水魚も多く繁殖しており、ドンコのターゲットはオヤニラミ以外にも豊富に存在すると推測できます。
7年前に赤磐市の生物多様性地域活性化活動の一環として実施された同河川での調査でも確認されていたオヤニラミは、淘汰されることなく今回も生き延びていたことが分かりました。
よほどの大雨が降らない限りは氾濫するような川ではないため、これにより植物相や生態系が大きく変化することは少ないでしょう。
今後の問題は、少雨による生息環境の悪化や気温上昇による水温上昇だと考えられます。地球温暖化によって生育環境は徐々に悪化していく恐れがありますが、私たちが意識して河川の環境を守っていくことが何より大切です。
川にゴミが流れ着くと、魚や鳥などの生態系に大きな悪影響を与えます。豊かな自然を守り、将来も日本在来種を見ることができるように、ゴミのポイ捨てだけは絶対にやめましょう。
環境保護や保全を心がけよう
次にガサガサ調査をする予定の数年後にも、オヤニラミが捕獲できると嬉しいです。
オヤニラミは、岡山県では絶滅危惧II類に分類されますが、島根県や香川県では絶滅危惧I類に指定される希少種。別の場所に移植すると国内外来種となるため、捕獲や放流は絶対にやめましょう。
みんなが気を付ければ、環境を保護できます。河川のゴミ拾い活動などで環境保全すれば、よりよい環境となるので、近くの団体が実施するこのような活動に家族で参加してみるのもおすすめです。
（サカナトライター：額田善之）
参考資料
細谷 和海、内山 りゅう、藤田 朝彦、川瀬 成吾、井藤 大樹（2025）、山渓ハンディ図鑑 日本の淡水魚 第4版、山と渓谷社
