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コラム

大学生が「好き」という熱量だけで作った水族館 オープンの経緯と運営の裏側<連載:わたしと水族館>

水族館は、不思議な場所です。同じ水槽を見ていても、そこに映るものは人それぞれ。魚の姿に心を奪われる人もいれば、静かな時間に安らぎを感じる人もいます。研究の対象として向き合う人、仕事の現場として日々関わる人にとっては、また違った景色が見えていることでしょう。連載「わたしと水族館」では、さまざまな立場の書き手のみなさんに、水族館にまつわるエッセイを寄せていただきます。今回は、おばま水族館 館長の眞壁喜一郎さんにご寄稿いただきました。

2026年5月1日、福井県小浜市に日本で初めて大学生が作った水族館がオープンしました。それが「おばま水族館」です。

おばま水族館は、海と山と川に挟まれており、近くには湖がある──魚を愛する者には堪らない最高の土地にある、小さな町家の水族館です。

館内の水槽はすべて「一学生一水槽システム」であり、学生が好きで堪らない生物を展示するというのがコンセプトです。

それぞれの水槽で飼育されている生きものたちは、学生が愛情を込めて飼育しています。そのため、どの水族館よりも魚との距離が近く、「魚がこっちを見てくれる」という特徴があります。

眞壁とカサゴ水槽(提供:眞壁喜一郎)

魚が好き、海が好き、そんな学生の「好き」の力を上手く発揮できる場所がこの小浜に出来たらどんなに素敵だろうか──そう思った私は、2年半後におばま水族館をオープンしました。

一文無しのただの大学生、しいて言うならば学級のリーダーを経験した数が多かっただけ……という若者が、40人の学生たちを引っ張り、たくさんの方の力を借りて「おばま水族館」を作ることができたのは、私を含むたくさんの魚好きの「好き」の力があると思っています。

よく、「一番の苦労は何でしたか」と聞かれますが、不思議なことに、私は今まで一度も「苦労した」と思ったことがありません。

お金も場所もないところからのスタートでしたが、初めて書いた拙い企画書を持って、地域の大人たちや専門家のもとへ飛び込むと、私たちの熱量に呆れつつも、面白がって力を貸してくれる人たちが次々と現れました。

40人の学生メンバーを巻き込めたのも、私が引っ張ったというより、全員が「自分の理想の水槽を作りたい!」「水族館を作ってみたい!」というワクワクを武器にして突っ走ってきた結果です。

私を含む、たくさんの魚好きの「好き」の力が集まれば、苦労さえも楽しさへと変わるのだと、私は身をもって知りました。

「好き」という大きな力を、そのままの形で生かせる場所が世界にもっと増えていくことを願い、僭越ながらこの文章を寄稿します。

福井県立大学海洋生物資源学部での生活

おばま水族館を運営しているのは、私を含め約40人の学生メンバー。全員が福井県立大学海洋生物資源学部の学生です。

福井県立大学海洋生物資源学部では、1年生の間は海から100km以上離れた永平寺キャンパスで一般教養を学びます。

魚が好きで進学したにもかかわらず、海に触れられないという少々苦しい「お預け期間」があるからこそ、2年生になって小浜へ引っ越してきた時の学生たちの反動はすさまじいものです。

一切の誘惑がない小浜という最高の土地で、溜まっていた情熱を爆発させるかのように、みんな狂ったように釣りやガサガサに励みます。

私も1年生の時は魚を捕りに行けない悔しさから、ゲームに明け暮れる毎日を半年以上過ごしました。

そんな日々にもさすがに飽きてきた頃、地域で教育事業を手がける福井県立大学の卒業生と出会い、プロジェクトを進めるうえで必要なことを叩き込んでもらいました。

そして私は、「水族館を作る」という夢に向かって動き始めました。

「小浜に水族館を作りたい」

「水族館を作る」という夢に向け、これまでゲームに費やしていた時間はすべて企画書を作る時間となり、一人自転車で出向いては色々な人と話しました。

「小浜に水族館を作りたいんです」

スーパーのレジの方や近所の人、出先で出会った人など、誰にでもそう話し続けていました。

すると、「資金はどう集めるのか」「場所はどう探せばいいのか」「誰に相談すればいいのか」といった情報が少しずつ集まり、気づけば力になってくださる大人や専門家とのつながりも増えていました。

そして、私に本当にたくさんのことを教えてくださった県立大学卒業生の方が、小浜市で活躍されている建築士さんを紹介してくださいました。それをきっかけに、その建築士さんとやり取りをするようになります。

物件探しからオープンへ

2年生になって小浜へ引っ越すと、建築士さんは私の拙い企画書と手書きのレイアウトをもとに見積もりを作成してくださり、物件探しにも力を貸してくださいました。

物件探しは難航しました。当初は「水族館といえば鉄筋コンクリート造りの建物」というイメージがあったため、コンクリート造りの空き家ばかりを探していました。

しかし、費用が現実的ではなかったため、やむを得ず木造の建物にも目を向けることになります。

すると、いつも相談に乗ってくださっていた建築士さんのお客さんの中に、「木造の空き家を所有しており、水族館に改修してもよい」と言ってくださる方がいたのです。

建築士さんが関係者との話し合いの場を設けてくださり、そこで私の熱意を伝えた結果、建物を水族館として改修することが決まりました。もちろん、その工事も、これまでずっと相談に乗ってくださっていた建築士さんが手掛けてくださいました。

工事が始まってからも、何度もイメージをすり合わせ、レイアウトを書き直しながら、一つずつ形にしていきました。工事が進む中でも、建物に入口が二つあることや井戸が残されていることなど小さなサプライズがありました。

「障子の取手は魚の形にしよう」「照明には伝統漁法の網を使おう」「カウンターの上には船のライトをつけよう」と、建築士さんと私のお互いから溢れ出るアイデアの数々を一つずつ形にしながら、2026年2月にはこだわり抜いた「おばま水族館」が完成しつつありました。

おばま水族館(提供:眞壁喜一郎)

ここまでの準備は、私一人でやり抜いてきました。

そしてようやく「おばま水族館学生メンバー」を募集すると、続々と興味を持っている学生から連絡が来るようになり、最終的には40人もの仲間が集まりました。

建物が完成すると同時に、ロゴやホームページの制作、SNSの活用、グッズ作成、そして水槽の立ち上げが一斉に始まります。

私一人では到底追いつけない量の「やらないといけないこと」から、学生メンバーたちはそれぞれが得意なことを見つけ、「面白そう」と楽しみながら主体的に取り組んでくれました。

3月まではただの町家だった建物が、4月になると次々に水槽が設置され、生きものが入り、少しずつ水族館らしい姿へと変わっていきます。

オープン直前の1週間は、多くの学生たちが朝から日付が変わるまで水族館に居続け、最後の調整や館内の装飾、レジ機材の設定等に明け暮れました。

学生たちが作業する様子(提供:眞壁喜一郎)

「誰もやったことがないことを、今、自力でやるしかない」

そんな状況だったため、その場にいた全員が疲労困憊でした。それでも何とか工事や準備を終え、2026年のゴールデンウィーク初日、日本で初めて大学生が作った水族館「おばま水族館」はオープンしたのです(ちなみに、この日は私の誕生日でもあります)。

学生たちで運営されている水族館の裏側

現在のおばま水族館が、学生たちによってどのように運営されているのかを説明します。

私は主に経営を担当し、施設全体に関わる最終的な判断を行っています。

一方で、水槽ごとの管理や事務作業、受付などは、それぞれ担当の学生が中心となって運営しています。

おばま水族館は「学業ファースト」で運営しているため、実験がある月・火・水曜日は休館日としています。この3日間は、夕方から水槽の掃除を行ったり、水槽内のレイアウトを変更したり、新たな生きものを採集しに行ったりする時間です。

大型の海水水槽の水替えには20Lのポリタンクをいくつも持って海に向かい、、学生メンバー総出で何度も海と水族館と往復します。

作業が日付をまたぐことも珍しくありません。それでも、一人暮らしの部屋にはとても置くことができないような大型の水槽を管理したり、気が済むまで黙々とレイアウトを調整したりする学生たちの姿はとても楽しそうに見えます。

24時を過ぎる頃には水族館の明かりも消え、館内は静けさに包まれていきます。

営業している日は、手の空いたメンバーがフラッとやってきて解説員になったり、餌をやりに少しだけ来たりすることがあります。しかし、多くのメンバーが営業終了後の16時ごろから集まってきます。

翌日の営業に向けて展示を整えたり、片付けをしたり、営業中に気付いた改善点を反映させたり、水質測定を行ったりと、それぞれが役割を見つけて動いています。

営業中に気が付いた部分の改善や、日々の水質測定なども営業時間後に行います。

おばま水族館では、学生メンバーに「必ず挨拶をしてください」と伝えています。そのため、水族館前を通る近所の方や観光客には、みんなが自然と挨拶をします。

オープンしてから1カ月もすると、よく来てくださるご近所さんや散歩中の犬や猫とも顔馴染みになるメンバーもいます。

そんな光景を見るたびに、一人で始めた「おばま水族館プロジェクト」にたくさんの学生が関わっていて、地域に少しずつ溶け込んできたことを実感します。

福井県立大学の学生の多くは、小浜で3年間を過ごし、大学とアルバイト先を往復する生活を送り、卒業すると県外の地元や都市部へと旅立っていきます。

だからこそ、その短い学生生活の中で地域の人と自然に繋がれる場所として「おばま水族館」が機能するようになったら、創設者としてこれほど嬉しいことはありません。

「好き」は世界を変えていく。

「大学生が水族館を作る」

そう聞いて、「そんなの無理」だと思った人のほうがきっと圧倒的に多かったのではないでしょうか。

そんな無理難題に立ち向かい続けることができたのは、私自身が魚を捕ることが大好きで、ここには同じように魚を捕ることが好きな学生たちがたくさんいて、そんな仲間たちと一緒に水族館を作れたらどれほど素敵だろうかという思いを、最後まで持ち続けることができたからだと思います。

おばま水族館に関わる学生たちは、誰一人として特別な存在ではありません。

ただ、魚や海が好きという理由で全国各地から福井県へ集まってきた──それ以外は、本当にどこにでもいる普通の大学生です。

水槽管理をやったことがない学生も、魚を捕ったことがない学生もいます。

それでもおばま水族館にかける情熱が増す一方なのは、きっとみんなどこかに「好き」という力を持っているからだと思います。

魚には特別詳しくなくても、好きだという人。お客さんに魅力を伝えることが好きだという人。そういった「好き」を持っている人がたくさんいるから、私は小浜に水族館を作ることができたのだと思います。

そこに、私の話に耳を傾けてくださる大人や専門家の皆様、そして、まだ場所もお金も決まっていない時から応援してくれていた方々がいたからこそ、自然に地域と打ち解けていける水族館になったのだと思います。

そして、これまで学級長として人と向き合い、人を巻き込む喜びを感じてきた経験と、ただひたすら魚が好きだという私や学生の気持ちが多くの人へ少しずつ伝わっていったからこそ、おばま水族館にはオープンからわずか1か月で4000人ものお客様が足を運んでくださったのかもしれません。

何かを好きだと思う人がいて、その人たちが自分らしく生きていける環境をつくる人がいる。その両方がそろったとき、世界はもっと素敵になっていくはずです。

大人になるにつれて、好きなものと向き合う時間は少しずつ減ってしまうことがあります。

だからこそ、魚や海が好きな若者たちが集まる小浜が、誰もが好きなものを「好き」と言える場所になっていってほしい。私は、そんな未来を願っています。

この文章を読んでくださった方と、おばま水族館でお会いできることを楽しみにしています。

まかべ・きいちろう●2004年、大阪府生まれ。

大阪から魚と海に惚れて福井県小浜市へ。全国から集まる魚好きな学生たちが、その「好き」の力をそのまま発揮し、地域とも繋がれる場所を作りたいとの思いから、2026年5月に水族館を創設。22歳の現役大学生で館長に。「一学生一水槽」を掲げ、学生の情熱が詰まった“大きな趣味部屋”を通じて、若者が好きなものを「好き」と胸を張って言える世界を目指し、日々奮闘している。

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