複数の種の名前がくっ付いた魚
非常にややこしいことに、魚には一つの標準和名に複数の魚名が含まれることがあります。
例えばカマスベラ。本種は主に南方の浅海に生息する海水魚で砂地や岩礁に出現します。名前に”カマス”と付きますが、カマス科ではなくベラ科に分類され、分類学的にもカマス科とは遠い存在です。また、体色も黄色や緑色といったカマス科とは程遠い体色を持ちます。
では、なぜカマスの名を冠しているのか?
おそらくですが、本種はベラ科にしては非常にシャープな体を持つことから、このような名前が付いたと考えられます。ちなみに本種はカマス科とは異なり背鰭が一つしかないため、背鰭が2つのカマス科とは区別することができます。
本種のように魚の名前が2つくっ付いた和名の魚は他にもいます。
ベラの名前を冠したベラギンポは浅海の砂地に生息する海水魚です。細長い体と基底の長い背鰭・臀鰭が特徴的であり、一見するとギンポのように見えます。
しかし、本種はギンポ科でもなければベラ科でもないベラギンポ科に属します。ベラギンポ科はワニギス亜目に分類されるためベラ科(ベラ亜目)とギンポ科(ギンポ亜目)とは近縁ではありません。
また、サヨリトビウオという小型種は従来トビウオ科に属してましたが、現在では分類的な整理されサヨリ科に属します。
その他にも「複数の種の名前がくっ付いた魚」には、オコゼカジカ(ホカケアナハゼ科)やドンコタナバタウオ(タナバタウオ科)、ウナギギンポ(ウナギギンポ科)などがいます。
最近命名された変わった名前の魚
タピオカウツボ(Gymnothorax shaoi)は2022年に奄美大島で得られた標本をもとに、日本初記録主として和名が提唱されたウツボ科の魚です。ここで注意したいのがGymnothorax shaoiは2007年に台湾から得られた標本をもとに新種記載された魚であり、2022年に新種記載された魚ではないことです。
本種は地色と特徴的な斑点模様がタピオカミルクティーを連想させることから、タピオカウツボと命名されました。
ティーダチワラスボも同じく2022年に和名が提唱された魚です。本種はハゼ科チワラスボ属の魚であり、近縁種と比較して鮮やかな赤い体色が、ティーダ(琉球の方言で太陽の意)を連想されることからティーダチチワスボの和名が付きました。チワラスボ属の魚たちは識別が難しいことが知られています。
ピエロカエルアンコウは2022年、沖縄島と屋久島の河口域で得られた標本をもとに日本初記録種として、標準和名が提唱されたカエルアンコウ科の魚です。本種の名前の由来は第2背鰭の形が三角帽子を連想させること、体色が派手でありピエロを連想させることに因みます。
なお、本種はカエルアンコウ科の中では唯一、汽水域・淡水域に出現する種としても知られています。
食べ物の名前がついた魚
ツケアゲエソはエソ科の魚で、2020年に薩摩半島で得られた標本をもとに、日本初記録種として標準和名が提唱されました。近縁種のマエソやクロエソと共に薩摩の名産である「ツケアゲ(さつま揚げ)」の原料とされており、体色がツケアゲを連想させる金色であることからツケアゲエソと命名されました。
クサヤモロはアジ科ムロアジ属の魚です。沿岸に群れで生息することが知られ、釣りなどで漁獲されます。標準和名に使われている”クサヤ”は新島発祥の干物を差し”モロ”は”ムロ”が転訛したものと言われています。本種は名前にもある通りクサヤの原料となっており水産上重要な種です。
イレズミコンニャクアジは水深1000メートルにまで生息する深海魚で、名前もさることながら見た目や分類まで変わった種です。本種はスズキ目イレズミコンニャクアジ科イレズミコンニャクアジ属に属する大型種であり、イレズミコンニャクアジ科の魚は全世界で1属1種のみが知られています。”アジ”と付きますが、アジ科の魚ではないのです。
では、なぜ”アジ”と付くのかというと、骨格がアジに似ているからだそうです。また、和名中の”コンニャク”は本種の柔らかい体が由来しています。未成魚は名前通り刺青のような模様がありますが、大型個体ではこの模様は見られません。
かつて、大型個体はナガコンニャク(Acrotus willoughbyi Bean, 1888)と呼ばれ別種と考えられていましたが、現在では同種とされています。本種のように深海魚には”コンニャク”と付く魚が多くおり、いずれも柔軟な体を持ちます。
<”コンニャク”とつく深海魚>
ボウズコンニャク
アラメコンニャクイワシ
トガリコンヤクイワシ
今回は「複数の種の名前がくっ付いた魚」と「食べ物の名前が付いた魚」を中心に紹介しました。
近年、和名が提唱された魚には変わった名前がたくさんいます。これから記載される魚や日本初記録種にどのような和名が付くのか見逃せません。
(サカナト編集部)