水面に浮かび生活する生物を総称して「ニューストン」と呼びます。
ニューストンの代表例は、アサガオガイ科やカツオノエボシ、ギンカクラゲなどの生き物です。そんな彼らについては不明点も多く、成長や年齢など基本的な情報すらわかっていませんでした。
そうした中で、東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の脇田大輝特任研究員らの研究グループは、神奈川県で採集したギンカクラゲを長期飼育することに成功。本種が水面で数年も漂っている可能性を示しました。
この研究成果は「Scientific Reports」に掲載されています(論文タイトル:A neustonic hydrozoan Porpita porpita drifts for over a year)。
海表面を漂うニューストン
自然界には様々な生活様式の生物が生息していますが、中でも水面に浮かび漂う者たちを総称して「ニューストン」と呼ばれています。
アサガオガイ科の貝類やカツオノエボシ、ギンカクラゲ、ウミアメンボはニューストンの代表例ですが、水面を漂う彼らは謎が多く、成長や寿命など基本的なことすらわかっていませんでした。
カツオノエボシ(提供:PhotoAC)その原因として、海を漂う彼らの出現を予測することは難しく、仮に採集できても飼育が困難であることが挙げられています。
群体動物「ギンカクラゲ」
今回、研究グループはニューストンの中でもギンカクラゲに着目しました。
ギンカクラゲ Porpita porpita はクラゲと付くものの、ミズクラゲやアカクラゲとは大きく異なった形状をしており、3種類の個虫が浮きの下に集まった群体となっています。
ギンカクラゲ(提供:illustAC)本種は円盤状の“浮き”が空気を含むため、海水面を漂い生活することが可能。一方、群体が増えれば、浮きも大きくなる必要があります。
研究グループは、この浮きの成長について観測を行いました。
21日間の飼育に成功
研究に使用されたギンカクラゲが採集されたのは神奈川県沿岸。研究グループは、採集したギンカクラゲの飼育条件を検討する中で、最長21日間にわたる飼育に成功しています。
9~21日間の飼育で、浮きの半径を測った結果では、小さい群体ほどよく成長し、大きくなるにつれて成長が鈍ることが明らかになっています。
また、浮きではたくさんの空気の部屋がクチクラ(膜)の壁で区切られ、最も外側に新しい壁が作られることが判明。このことから、浮きは膨らんで大きくなるのではなく、外側に新しい部屋が追加され成長すると考えられています。
ニューストンの寿命は思ったより長い?
大きくなるほど成長が鈍くなる性質は、ベルタランフィ成長式という数式によく合うといいます。
そこで研究グループは、観測した浮きの半径の変化とその範囲を式にあてはめ、ベイズ推定と呼ばれる統計のツールを駆使。「群体があるサイズの時、どのくらいの齢か」の予測を立てました。
その結果、半径1センチに満たない群体では数カ月ほど、2センチを超える群体では3年以上も生きている可能性が高いことが明らかになっています。
これまで、ニューストンの寿命は数カ月程度と報告されていたようです。ギンカクラゲが何年も海面を漂うのだとしたら、最長寿命が大きく更新されるとのことです。
海洋生物の保全にも貢献
今回の研究によって、飼育の難しいギンカクラゲが最長21日間飼育され、その記録から海面を数年漂流する可能性が示されました。この結果は、これまで、数カ月程度とされていたニューストンの寿命を大きく更新するものです。
また、海表面生態系は海洋みや海洋環境と密接な関係があります。この環境を支える生物種の理解は、海洋生物の保全や環境変動の評価につながることが期待されています。
(サカナト編集部)